top of page

01 カントリー・コンフォート

「田舎の心地良さ」掲げて 自社ブランド食品を展開

サンクゼールの丘にて

 北信の山々や美しい田園地帯を望む飯綱町の高台に「サンクゼールの丘」があります。サンクゼールの本社とともに、店舗、ジャムやソースの工場、ワイナリー、ブドウ畑、レストラン、チャペル、庭園などを備えた「サンクゼールの丘」は、ジャムやソース、ワインなどの食品の製造販売を展開する「サンクゼール」が掲げるコンセプト「カントリー・コンフォート(田舎の豊かさ、心地良さ)」を理解してもらうのにふさわしい場所といえるでしょう。

 サンクゼールは、飯綱町芋川の本社と、信濃町平岡の信濃町センターの2拠点のほかに、米国オレゴン州に私の次男が社長を務める「St.Cousair,Inc」を置き、日本全国に展開する約140店の店舗で、「サンクゼール」と「久世福商店」の二つのブランド商品を販売しています。スタッフは、パート・アルバイトを含めて709人(2020年12月31日現在)います。

 「サンクゼール」は、主力商品のジャムのほか、約10ヘクタールの自社農園で育てたブドウで造るワイン、飯綱町産のリンゴでつくるシードル、アップルブランデーなどが人気です。「久世福商店」は、全国各地の生産者と開発した、だしや調味料などがあります。

 多くの方々に弊社の商品に親しんでいただき、店舗の拡大とともに知名度も上がり、会社の規模も大きくなりました。サンクゼールの前身である「斑尾高原農場」を設立したのは40年近く前。振り返ると「周りの人たちに心配や苦労をかけながら、叱咤激励され助けられ、何とかあきらめずにやり続けられた。多くの方々に恵まれた人生だった」との思いが強まります。

 私は1950(昭和25)年、東京都豊島区東池袋に生まれ育ちました。慶応大学卒業後、大手スーパー「ダイエー」と父の会社「久世」を経て、25歳の時、飯山市の斑尾高原で念願だったペンション経営を始めました。開業して間もなく、宿泊客としてペンションを訪れたのが妻のまゆみです。

 夫婦でペンションを切り盛りし、妻がお客さまの朝食用に作っていたりんごジャムをお土産に差し上げていたところ、これが評判になりました。その後、ペンションを閉じて、中野市に「斑尾高原農場」を設立し、本格的にジャムの製造販売を始めたのです。社名とは異なって、当初は自社工場も農場もありませんでした。

 当時、一般に売られていたジャムは、糖度が高く果物本来のおいしさが感じられませんでした。食品業界は、大量生産するために、香料や保存料などの添加物を使って原価を安く、賞味期限を長くする技術が必要とされていました。日本にもスーパーマーケットが普及し、安定して均一なものを大量に供給することが求められていました。

 果物そのものの香りと食感を残し、風味を出した方がおいしいのに、何で香りのない砂糖漬けのようなジャムにしているのかと夫婦で考えました。お客さまのため、家族のために添加物のないものの方が絶対に良いはずだ―と、新しい物というより、まともな物を作りたいと提供したのが私たちのりんごジャムでした。

 当時の日本農林規格(JAS)でジャムは糖度65度以上という規定がありました。私たちのジャムは糖度50~55度程度なのでジャムとは名乗れず、「生ジャム」や「低糖度ジャム」として売り出しました。原材料のリンゴの含有量が圧倒的に多く、砂糖を少なくして砂糖以外の添加物を使わず、果物そのものの良さを引き出した、とろみのあるジャムでした。じっくり時間をかけて、果物の素材を生かしたジャムづくりは今も変わらず続けています。

 会社は2018年長男が社長を引き継ぎ、現在、私は会長を務めています。大切なスタッフたちは、現役の頃よりも孫のような感覚になったのか、いとおしくかわいく思えるようになりました。

 70歳を迎えてなお、夢は膨らみます。妻ともこれからのことをよく話し合います。思う存分ゴルフのできる時間や、初めて過去をゆっくり振り返る時間を持てることに感謝し、時間を有意義に使っていきたいと考えています。

(聞き書き・松井明子)

 

久世良三さんの主な歩み

1950(昭和25)久世福松・美喜夫妻の三男として東京都豊島区東池袋で出生

1965(40)都立豊島高校入学

1968(43)慶応義塾大学経済学部入学

1972(47)同大学卒業 ダイエーに入社

1973(48)ダイエー退社 株式会社久世に入社

1975(50)久世を退社 斑尾高原で「久世ペンション」を開業

1976(51)まゆみさんと結婚

1979(54)斑尾高原農場ブランドで、ペンションと並行してジャム製造販売開始

1981(56)久世ペンションを廃業売却

1982(57)中野市に「株式会社斑尾高原農場」設立

1984(59)フランスのノルマンディー地方へ夫婦で旅行

1985(60)三水村政100周年記念事業の企業誘致に決まる

1988(63)三水村(現飯綱町)に本社・工場完成 ジャム自社生産開始

1989(平成元)「レストラン サンクゼール」オープン農業生産法人・有限会社「三水ワイ

         ン生産農園」を設立

1990(2)酒造免許を取得 本格的なサンクゼールワイナリー(ワイン工場、本店ショッ

      プ、大入葡萄園)オープン

1999(11)サンクゼールワイナリー1号店を軽井沢にオープン

2005(17)サンクゼールチャペル完成 社名を「株式会社サンクゼール」に変更

2013(25)信濃町に工場と森を取得 久世福商店1号店オープン

2017(29)米国オレゴン州に「St.Cousair Oregon Orchards,Inc」設立

2018(30)代表取締役会長に就任 長男・良太さんが代表取締役社長に


2021年2月13日号掲載

bottom of page