物質的豊かさに圧倒され 多様な出会いにわくわく
大学4年時の米国・ヨーロッパの一人旅。父からの課題である米国のビジネスに関するリポートは、旅先で書いては投函し送りました。
食品と雑貨を販売するコンビニエンスストアの「セブンイレブン」の店舗が、全米でどんどん増えていた時期で、「日本で展開したらどうなるだろうか」とか、今では日本でもおなじみのファミリーレストランの「デニーズ」が、長距離バス「グレイハウンドバス」のバス停近くに必ずあり、「こういうおしゃれなレストランを日本に持ってきたら面白いのではないか」など、自分で気が付いたことを書きました。
ホームステイ先では、現地のスーパーを案内してもらい、バックヤードを見学しました。コンピューターで在庫管理や受発注をする仕組みが既にできていました。問屋さんを紹介してもらってオフィスを訪ねたり、写真を撮らせてもらったりもして、父にリポートとして送ることができました。
「シアーズ・ローバック」という高級デパートの通信販売のカタログが、どの家庭にも置いてありました。電化製品やベッド、ファッションすべてが載っていて、見ているだけで憧れてしまうようなカタログです。国土が広すぎて店になかなか行けない人が多いから、米国は早くから通信販売が発達しました。そういうものも、実際に米国に行ったから見ることができました。
フリーウエーが整備されて、周辺に何もないような所にどんと大きな街ができ、大きなショッピングモールやスーパーがありました。ダウンタウンにあったマクドナルドやデニーズも、郊外に。当時、ニューヨークやサンフランシスコなど大都市のダウンタウンは治安が悪く、白人は安全を求めて郊外に移っていったのです。
戦後、貧しかった日本の街を見ていたので、米国の物質的な豊かさに圧倒され、街のきれいさ、モータリゼーションの発達など、日本との違いに驚きました。
旅の途中で、学生、ネーティブ、黒人、お金のない白人のおじいさん、おばあさんなど、さまざまな人と知り合っていろいろな話ができました。「牧師になりたい」「ボランティアで人助けをしたい」「コンピューターの時代になるので起業したい」という若者たちに出会い、抱く夢の多様性にびっくりしました。
いい大学を出て、一流企業に入って―というような決まりきった進路でなく、自分の生き方を模索している人が多くいると感じました。日本だと、私と同じ経済学部の学生は、商社や銀行など一般企業に勤めたり、大学教授になったり、目指す職業はある程度決まっていたので、日本とはやっぱり違うなと実感しました。
その後、ニューヨークから飛行機でオランダのアムステルダムに渡り、ヨーロッパ中の鉄道で旅ができるユーレイルパスで1カ月ほど、ベルギー、イタリア、フランス、スペイン、スイス、オーストリアを回りました。米国からの旅行者がたくさんいて、アムステルダムはヒッピーのたまり場のような感じでした。ヨーロッパでも、格安のユースホステルで寝泊まりをして旅を続けました。
ヨーロッパは歴史があって街並みもすてきでしたが、米国のほうが移民国家で若く活力がありました。
一人旅は、世界中の学生など、生でいろいろな人と出会えて言葉も覚えられてわくわくするものです。若い人にはぜひ一人旅を経験してほしいと思います。
聞き書き・松井明子
2021年3月13日号掲載