ある研究によると、一人の人間が一日に行う選択や決定の回数は3万5千回に上るそうです。
朝起きて何を食べて、何を着て、どの道で出掛けるかなど、無意識のうちに膨大な判断を下しているのです。それにもかかわらず、意識して判断しようとすると迷ってしまうこともあります。
ハンバーガーショップのカウンターで選択に時間がかかり、店員や後ろに並ぶ客の視線が気になって、慌ててしまったことはありませんか。仲間とレストランに入って自分だけ決められず、やむなく皆と同じものをオーダーした経験はありませんか。実は、こういった状態に陥るのは特別なことではなく、誰にも起こるものだと研究で確かめられています。
米国コロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授は、スーパーで、6種類のジャムと24種類のジャムを試食させる実験を行いました。2パターンの時間帯を分け、どちらの方が多く試食されるか、また試食後に多く売れたのはどちらか調査したのです。
この結果、多く試食されたのは24種類の試食でしたが、実際に購入されたのは6種類の方でした。24種類のジャムを試食した人の多くは迷った揚げ句買わなかったわけです。
人間は、選択肢が多いと選べなくなることがあります。この心理は行動経済学で「決定麻痺(まひ)」と呼ばれています。これは無意識の行動であり、誰にも起きるものです。ショッピングセンターで買い物をする家族に待ちくたびれたからといって、怒ってはいけません。
アイエンガー教授のおすすめは、選択肢に重複があれば減らし、また分類やグループ化をして、多くの選択肢から一度に選ぶ状態を避ける方法です。
買い物中の家族に待たされた時、せかす前に優しくアドバイスしてはいかがですか。その際、相手が選択に悩んでいるのか、単に買い物を楽しんでいるのかは、よく見極めてください。後者の場合には、ただ嫌がられるだけとなりかねませんから。
(マーケティングコンサルタント)
(2020年7月4日掲載)