山頂直下にカタクリの群落
かれんな姿から「春の妖精」と呼ばれるカタクリの花を見に、4月中旬に長野市と飯綱町境の髻山(もとどりやま)(744メートル)に出かけた。山頂直下の群落は期待以上の規模で、足の踏み場もないほどだった。
髻山の名の由来は、小高い山の姿が髪の毛を頭上に集めて束ねた昔の髪型に似ていたことからという。尾根続きの三登山(みとやま)(923メートル)と結ぶ市のトレッキングコースになっている。
市街地から近い低山のため、山仲間と2人で9時に出発。若槻大通りを北上し、吉(よし)の集落に入る。トレッキングコース入り口の看板に沿って上って行くと、諏訪神社の先に登山口が。近くに駐車場が用意されている。
9時40分に登り始める。スギやアカマツの林の中に入ると、青紫色のスミレの花が目立つ。さらに進むと、草むらの中に廃車となったトラックが現れた。
この辺りが開拓地だった旧髻集落の跡地のようだ。十数年前に訪れた時は崩れかかった廃屋が幾つかあったが、今回は気づかなかった。全て崩れ落ちてしまったのだろうか。
その先で宇佐美沢から上がってくるコースと合流。少し上ると「髻山登山道」の標柱と「髻山城跡380メートル」の看板が。ほぼ中間点のようだ。ここで休憩。
付近には「観音清水」の看板があり、石で囲われた中に差し込まれたパイプから水が流れ落ちている。
由来文には「戦国の昔、髻山に出陣した上杉謙信が山中に水を求めて井戸を掘らせたが、兵を養うには十分な水量が得られなかった。そこで大切にしていた黄金の千手観音を井戸に投じて祈願したところ、こんこんと水が湧き出した」とある。
すぐ脇には「髻山は火山です」の看板も。一帯から出る安山岩は、放射年代測定で18万〜22万年前の溶岩であることが分かった—と記されている。
「髻山城跡220メートル」の看板を過ぎると、突然カタクリの大群落が現れた。山頂間近の急斜面に赤紫色の花が一面に咲き乱れている。規制のロープなど何もないため、花や葉を踏まないように足元に気を配りながら何枚も写真を撮る。
いつもなら4月下旬というが、今年は春が早くちょうど花の盛りに恵まれた。しかも昼前の絶好の時間帯だったようだ。ここでだいぶ時間を費やしたが、11時過ぎには山頂に到着した。
小広い山頂部は上杉軍が守った山城跡で、周囲には石積みや土塁が巡らされている。あずまやや石祠(せきし)、石碑のほか、中央には一等三角点が。その脇には、かつて天文測量に使われたという県内唯一の天測点が立っている。重い機材を載せたコンクリート製八角柱の台座だ。
あずまやで早い昼食を取った後、帰路は観音清水の近くから林道に出て、う回路を下った。木々の芽吹きやコブシ、サクラの花が目を楽しませてくれた。
横内房寿
2023年4月29日号掲載