川と共に楽しむ野田さん 「らしい」風景をカメラに
1999年出版の「笹舟のカヌー」を良い出来栄えだと非常に喜んだ野田知佑さんから「すぐ2作目をつくりましょう」と声をかけてくれました。テーマは、野田さんが日本で一番好きな川である高知県の四万十川を下る旅に決まりました。
翌2000年のゴールデンウイークに、絵の参考にする写真を撮影するため、四万十川流域の口屋内(くちやない)という地域に出かけました。野田さんと四万十川の川辺でテントを張って、その近くでカヌーに乗り寝食を共にする3泊の旅です。
私は、羽田空港から高知県に向かう当日、胃がきりきりと痛み、とても心配しましたが、飛行機に搭乗する前に治り、ほっとしたことを今でもはっきり覚えています。野田さんと寝食を共にする旅を前に緊張していたのでしょう。
現地では、野田さんのマネジャーが運転する車に同乗させてもらいました。私はテレビなどで四万十川を見たことはあったものの、土地勘は全くありません。四万十川に詳しい野田さんに案内してもらいながら、私は夢中になって景色を写真に収めました。
四万十川の流域は比較的暖かく、昼間は半袖で過ごしていました。山は針葉樹よりも広葉樹の方が多く、葉の色が5月なのに紅葉したような黄色や赤色だったことも印象に残っています。その時の風景は、02年に出版された2作目「ささ舟、四万十川を行く」の「カワムツ・ウグイ・オイカワ/西土佐村」という絵に描きました。
四万十川の風景にはとても感銘を受け、絵のアイデアがたくさん浮かびました。例えば、繁殖期のため四万十川に来ていた渡り鳥の「ブッポウソウ」。黒い頭と黄色いくちばし、そして青い体が特徴の鳥です。この鳥の写真をヒントに、野田さんとガクがハンモックで休んでいる周りにブッポウソウがいる様子を「ブッポウソウ/西土佐村」という絵に描きました。
ほかには、「カワヤナギの綿毛/西土佐村」という絵には欄干のない「沈下橋」を描いています。欄干がないのは川が増水したときに流木などが引っかかるのを防止するためで、「四万十川らしい風景だ」と思いました。
自然が大好きな野田さんは、ゴルフ場に対しては自然を破壊するとして嫌っていました。あるとき、私がゴルフ大会の賞金が相撲に比べて高額である話をしようとして、「ゴルフ」という言葉を発した瞬間、機嫌が悪くなったこともあります。
昼間はカヌーを楽しみ、夜になると自然に生えている小さなタケノコをあぶって食べる。そして、空いた時間に雑誌に寄稿する記事を書いていました。そんな野田さんを見て「朝から晩まで川と共に楽しんでいるんだな」と改めて思いました。
この旅は、私にとって絵の素材を集めるだけでなく、野田さんのことを深く知る貴重な体験でした。私は、それまで同様に広告の仕事をしながら、2年ほどかけて「ささ舟、四万十川を行く」に掲載される36点の絵を描き上げました。
聞き書き・広石健悟
2024年10月19日号掲載