歩いて登った山岳観光地
猛暑が続いた8月下旬の土曜日、スタッフを務める長野県カルチャーセンター「里山講座」の会員たちと、白馬村の岩茸山(1290メートル)に登った。
グリーンシーズンの山岳リゾートとして知られる岩岳だ。ゴンドラに乗ればわずか8分で行けるところを、3時間以上かけて汗だくで山頂部に達した。
そこは軽装の観光客であふれていた。「マウンテンハーバー」と呼ぶ白馬三山を正面に望む展望台で写真を撮るカップルや、山々に向かって飛び出すようなブランコに興じる子どもたち。登山とは異世界が広がっていた。
岩茸山は北アルプスの小さな前山だが、山頂からの眺めは素晴らしい。「白馬三山が一番美しく見える」絶景の地として観光開発が進み、今では夏場の観光客がスキーシーズンを上回るほどだ。
7時に長野駅東口をバスで出発。五輪道路で白馬村に入り、8時半ごろ岩岳のゴンドラリフト駐車場に着いた。少し先の登山口までバスで進み、9時前に歩き始める。
しばらくは作業道のような広い道を進む。途中から山道に入ると、「犬の寝床」と書かれた看板のある木製階段が。全部で342段ある急斜面を息を弾ませながら登りきる。
その上にはパラボラアンテナがあり、足元には赤紫色のヤマハギが咲いていた。
見通しの良い高台に出ると、雨飾山など北部の山々が見渡せる。近くの林は茶褐色の葉が目立つ。一斉にナラ枯れ病にやられているようだ。
樹間越しに後立山連峰の山々をのぞきながら登って行くと、「天狗の庭」の看板のある広場に。昔、戸隠の天狗が月夜に戸隠山から三段紅葉の白馬三山を見て、あまりの美しさに引かれ、この地で月見の宴を開いた—とある。
さらに上ると、登山道脇のコースをマウンテンバイクの若者たちが3人、猛スピードで下って行った。
スキー場の最上部に出ると、登山道は白馬三山に向かって進む。目の前には杓子沢の雪渓が。晴れてはいるが山々はガスが濃く、残念ながら頂上は見えない。
正午過ぎにやっと山頂部に着き、椅子とテーブルが備わった休憩デッキで昼食に。辺りを行き交う観光客は、場違いのような軽装だ。
マウンテンハーバーから定番の写真を撮ろうと思ったが、長蛇の列の上、山は全く見えないので諦める。
代わって、すぐ近くの岩茸山頂上へ。樹木に囲まれ、観光客は誰も訪れない場所だ。山頂標識と三角点がひっそりと立つ。登った証しに全員で集合写真を撮る。
まるで遊園地のような山頂部を後にし、13時過ぎに下山へ。同じ道を下り、途中からバスが入れる地点へ歩く。帰路は村内の温泉に立ち寄り、長野へ。
横内房寿
2024年10月5日号掲載