ビートたけしが放った昭和時代のギャグ「赤信号、みんなで渡れば怖くない」。
令和の今、聞いても違和感はありません。人間には集団から外れたくない心理、集団と同じ行動をすることで安心を得ようとする心理があります。これを「同調効果」と呼びます。
米国の社会心理学者スタンレー・ミルグラムは、この心理を確かめる実験を行いました。ニューヨークの街中で、歩道に立って空を見上げた時に、近くの歩行者のうちの何人が、つられて一緒に空を見上げたか数えたのです。見上げる人が1人の時は43%の歩行者が見上げました。5人の時は80%、15人の時は86%と同調する人は増えました。このように人は、集団行動に遭遇した時に、特に集団が大きいほど、行動を合わせてしまうのです。
この心理は、さまざまな場面で影響を与えます。例えば、行列ができる飲食店に長時間並んでもストレスを少なく感じるのは、前後に並ぶ人々と同じ行動を取っている安心感からでしょう。日本において新型コロナウイルスの感染者数が他国より低く抑えられた理由の一つは、不要不急の外出を避け、マスクをする行為に多数が同調したことだと言われます。
一方で、同調効果が悪影響をもたらすこともあります。例えば学校などでいじめがなくならないのは、多くのクラスメートが、いじめる側に同調した結果です。いじめられた子を助けるのは正しい行為と理解していても、集団から外れることに強い恐怖を感じるのです。同調効果に従う行動は必ずしも良い結果を生むとは限りません。
今は、働き方や生き方が多様化しています。会社の将来に不安を抱きながらも、同僚が会社に勤め続けるからと安易に同調し、後で「あの時、転職しとけば良かった」と後悔するような事態は避けたいところです。
同調効果の心理をうまく自分の味方につけるには、まず自分が同調してしまうかもしれないことを自覚した上で意識や選択をチェックする習慣が必要です。
(マーケティングコンサルタント)
(2020年10月17日号掲載)