羽の上に野田さんと犬 千曲川を眺めながら着想
2011年2月、野田知佑さんとの共著「ささ舟カヌー 千曲川スケッチ」を出版しました。この絵本はささ舟カヌーシリーズの3作目で、野田さんの「3作目は藤岡さんの故郷である千曲川を取り上げましょう」という提案から実現しました。
野田さんは、初めての取材の時だけ私と一緒にカヌーに乗ってくれましたが、後は私だけで取材をしました。とはいえ、私も当時東京に住んでいたので取材も大変です。信濃毎日新聞夕刊の私の連載企画「風にふかれて」の取材で世話になった義兄の世話になりました。カヌーに乗って撮った写真以外に、車で移動し陸側から川の風景を撮った写真も多くあります。北信だけでなく、上田市や小諸市へも足を伸ばしました。
飯山市の「いいやま湯滝温泉」から少し下流側(新潟県側)の野沢温泉村に「矢垂大橋」という橋があります。そこを舞台にした「夕暮れの千曲川」は、カモの羽の上に野田さんとカヌー犬「ガク」が乗って、すっかり暗くなった冬の千曲川を見ている様子を描きました。
これは、湯滝温泉で千曲川を眺めながら温泉に入っている時、鳥の羽の上に乗って、この美しい千曲川を描いたらきっと良い作品になるだろうと考えたのです。散歩をしていた時に拾った鳥の羽からも着想を得ました。
「白鷺が行く」も私が気に入っている作品の一つです。場所は矢垂大橋より上流側で、湯滝温泉より少し長野市側。ここを舞台にしたのは、野田さんがいつもこの場所でカヌーに乗りながらハーモニカを吹いていたからです。
野田さんは「故郷」や「もみじ」など日本人になじみのある曲が好きでした。野田さんのハーモニカの音は理屈抜きでとにかく良く、カヌーに乗りながら聴いていると、ハーモニカの音が川の流れと一緒に流れていくようでした。
絵本の出版を間近に控えていた頃、親戚が「長野市へ戻ってこないか」と言ってきました。私の母は80歳近くまで長野市の自宅で一人暮らしをしていましたが、中野市の姉の家で暮らすようになり、長野市の自宅が空き家になっていました。そこに不審者が侵入する騒ぎがあり、それを機にUターンの話が具体化したのです。
私はいずれ長野市に戻ろうとは思っていました。長野市を離れて40年以上たっていましたが、昔の友達に会いたい気持ちもあり、Uターンに対する不安はあまりありませんでした。ただ、広告の仕事がなくなるのではという不安は少しありました。
2011年4月、長野市に戻ってきました。確かに広告の仕事はなくなりましたが、自治体の記念誌や教科書の表紙絵など別の仕事が舞い込んできました。ほかにも「全国川サミット」のポスター制作を依頼され、その関連で川上村で展覧会を開きました。多くの人が目にする教科書の表紙絵は特にうれしかったです。
長野市は緑が多く、自然環境が気に入っています。特に晴れた日に見る、透き通るような青い空が好きです。長野市に戻ってきて本当に良かったと思います。
聞き書き・広石健悟
2024年11月16日号掲載