ナパでワイナリーを経営 わが社を応援 出資受ける
1997年にオリンピックジャムの限定販売、1999年オープンの「サンクゼール・ワイナリー」軽井沢店(2020年に閉店)が成功し、経営が上向きになりました。
同じ頃、次男の直樹はアメリカに留学していました。高校3年のときに進路の相談を受けたので、「アメリカの大学に行くのも面白いと思う」とアドバイスすると、「ぜひ挑戦したい」とワインの勉強をするための短期大学「ナパ・コミュニティー・カレッジ」に入学。カリフォルニア州のナパバレー近郊に住む、私の知人でカリフォルニアの上位の銀行オーナーのダウナー夫妻に1年間ホームステイさせてもらいました。
私はナパバレーを研究していて現地をよく訪れていました。直樹に会いに、バイト先の寿司屋にも何度か行きました。ある時、まゆみさんと斑尾高原農場の幹部と3人で寿司屋に行きカウンター席に座りました。隣にいらっしゃったのがナパでワイナリーを経営する佐藤さんご夫妻で、それがご縁で交流が始まりました。
99年、佐藤さんから連絡があり「日本の方に私たちのワインをプレゼンしたいので、おしゃれなテイスティングパーティーをやりたい」と相談を受けました。私は、当時所属していた長野市のロータリークラブの皆さんを無料で招待して、テイスティングパーティーを開くことにしました。経営状態にゆとりができ始めていたとはいえ、パーティーに100万円くらい使ったので、経理担当者は当然ながら困惑したと思います。
佐藤さんがナパから連れて来たイタリア人シェフが料理を作り、サプライズでオペラ歌手に歌ってもらいました。徹底的にこだわったスマートなパーティーができて、佐藤さんはとても喜んでくださいました。大成功し、佐藤さんの顔を立てることができてうれしく思いました。
2000年、資金的に少しゆとりができて、ずっと頑張ってもらってきたスタッフほぼ全員を連れてナパに視察旅行に行きました。佐藤さんから「ナパのおいしいワインを集めて日本で販売しませんか」とご提案をいただいていたので、その準備も兼ねていました。
すてきなショップ、品質にこだわったワイン造り—。私がなぜナパで感動したのか、見れば皆さんにも分かってもらえると思いました。佐藤さんと寿司屋の社長が現地を案内してくれて、ワイナリーを20軒ほど周りました。
テイスティングパーティーで経費が100万円くらいかかったという話を佐藤さんにしたことはありませんでしたが、気に留めていただいていたようです。「ちょっと2人で話そう」と佐藤さんに呼ばれました。
「久世さんのところ、結構大変だという話を聞いたんだけど、本当のことを教えてください」と言われ、それまでお話ししていなかった苦しい経営状況をお伝えしました。佐藤さんから「明日、朝食を食べながら今後の話をしよう」と言われ翌朝、ご自宅に行きました。
「久世さん個人に1億円を貸し、斑尾高原農場に1億5000万円出資し、会社を応援しましょう」と突然の申し出。本当にうれしく、まゆみさんにも喜んでもらいたくてすぐに電話で伝えました。
ちょうど兄の会社「久世」が上場の準備をしていました。兄には1億円の借入金の保証人になってもらっており、上場にあたり久世の子会社になるか、独立するか、決めないといけない状況にありました。個性も社風も違い、長野県で創業した斑尾高原農場だったので、「資金は何とかするので完全に自立し迷惑をかけない」と兄に話していた矢先の申し出だったので、兄にもこれ以上心配や迷惑を掛けずに済んでほっとしました。
聞き書き・松井明子
2021年6月26日号掲載