ベースは聖書のみことば 全員参加でチャペル建設
例年、年末休みに入る前にスタッフと共に「仕事納め式」を行っています。2001年12月、仕事納め式の最後に、まゆみさんが「会社がますます繁栄しますように、皆さんの健康が守られますように、家族が祝福されますように」と、初めてスタッフの前でお祈りをしました。
あるスタッフが「会社に宗教を持ち込むのは違和感を覚える」といった発言をしました。初めてのことで恐らくびっくりしたのだと思います。一年の締めくくりだったので、その発言に対して私もまゆみさんも何も言わずに終えました。家に帰る途中、「ああいう反応もあるんだね」と話し合いましたが、冷静に考えれば当然の反応でした。
私は、経営者として影響力のある者として自分自身を戒め、自分たちが脱線しないためにも経営理念を確立しなければと考えていました。
創業後の35歳ごろ友人に勧められて、松下電器(現パナソニック)創業者の松下幸之助さんが設立した京都のPHP研究所に1年かけて12回通い、松下さんの経営理念などを繰り返し学びました。そのときに経営理念の大切さを知りました。松下さんや尊敬する先輩たちが経営理念をつくるときの話を本で読み、自分も経営理念をつくりたいと思っていました。
スタッフの反応を思い返し、年末年始の間ずっと考えていましたが、迷いはありませんでした。しかし、相当の勇気と決意が必要でした。年が明け、スタッフたちに新年の抱負を伝えるために再び皆さんの前に立った時、「ぶれないでいこう」とふっきれました。
「聖書に基づいた経営理念を打ち立てます」と力強く宣言しました。その場で、反発の声は上がりませんでした。「皆さんを宗教に巻き込もうとは思っていません。もし疑問があれば、面談で思っていることを聞かせてください」と話しました。
人を大切にする、相手の立場に立って考えるなど、会社がぶれないための経営理念のベースは聖書のみことばに基づきました。聖書にはたくさんの真理が書かれているので、毛嫌いせずにそのエッセンスを素直に学んでほしいと考えていました。
スタッフの中に違う信仰を持っている人がいることも分かっていたので、嫌な思いをさせないようにと、「皆さんの信仰については絶対に否定しません。クリスチャンでないからと言って、差別や区別をすることは一切ないので安心してください」ということははっきりとお伝えしました。
3年ほどの間、工場の一角で今はスタッフの休憩室になっている部屋を小さなチャペルにして、朝礼や礼拝を行っていましたが、スタッフが増えて手狭になってきました。
当時、三水に教会はありませんでした。お客さまから教会で結婚式を挙げたいという声があり、まゆみさんも地域の人のために教会を造りたいと強く願っていました。実現しようと思いましたが、会社にまだゆとりがなかったのでできるだけ建築費を安くしようと、私がイスラエルの「パンと魚の奇跡の教会」をモチーフにデザインし、アメリカ人宣教師の大工さんに頼むことにしました。建築資材はオレゴン州に買い出しに行きました。
建てたのはレストランの駐車場だった場所。スタッフや社外ボランティアの皆さんが駆け付けてくれて、しっくい塗りなど、全員参加で造り上げました。私も基礎施工などの手伝いに参加しました。会社経営のストレスが重なって大変な時期ではありましたが、すごく癒やされ、作業を心から楽しみました。2005年、約10カ月で「サンクゼールチャペル」(現・ぶどうの丘チャペル)が完成しました。
聞き書き・松井明子
写真=建設中のサンクゼールチャペルの前で、まゆみさん(右)と私
2021年7月3日号掲載