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23 はちのへワイナリー

まず「売り先」確保ありき 成功へのビジネスモデル

八戸ワイン産業創出プロジェクトの講習会後の食事会であいさつをする私

 2019年6月、私が事業に携わってきた「はちのへワイナリー」(青森県八戸市)の工場が完成し、式典が盛大に行われました。

 そもそもの始まりはその10年ほど前。私は、八戸市にあった地元の老舗百貨店でワインの販売支援と店舗の活性化をすることになりました。私が店舗に出ていると、「地元でワインブドウを栽培している人がいる」との話を聞きました。数軒の農家が、特産の葉タバコからワインブドウに転作したというのです。ただ専門家がいないため手探りでの栽培でした。

 翌日畑を見に行くと、病害虫の被害を受けていました。すぐ消毒をさせ、畑は持ち直しましたが、今後は専門家の助言を受けながら農家が一体となって栽培し、きちんとしたワイナリーを立ち上げるべきだということになりました。

 私はまず、私がアドバイザーを務めるイオンで売ることを前提にしたワイナリー立ち上げを提案しました。従来のワイナリーはワインブドウを植え、工場を作り、それから売り先を探していました。ワインを造ったものの売り先がうまく見つからず失敗するケースを数多く見ていた私は、かねてより抱いていた構想を、イオンの岡田元也社長(現会長)に提案していました。

 それは、仮にワイナリーを立ち上げる意欲のある人が努力の末に良いワインブドウを作ることができれば、高品質のワインができる可能性がある。その可能性が高いと見込めるのであれば、「イオンで売る」ことを前提に、イオン銀行と日本政策金融公庫、地元の銀行の三者の協調融資で、ワイナリーを立ち上げるというものでした。

 ワイナリー立ち上げを支援することで、イオンは地域活性化に貢献できる一方、ワイナリーは「売れない」リスクを減らせます。このプランの流れを当てはめてできたのがはちのへワイナリーだったのです。地元の人の賛同を得るため開いた「ワインを楽しむ会」には300人以上が集まりました。

 ワイナリーの大小を問わず、まず初めに「売り先」をいかに確保するか、自分のワインを買ってくれる「ファン」をどれだけ多くつかんでおくか。それが、私が長年の経験から到達した、ワイナリーがビジネスとして成功する鍵です。はちのへワイナリーは、そんな一つのモデルケースを実現したと思っています。

 しかし、はちのへワイナリー完成後、すぐに問題が起きました。工場長に手を挙げたのは、ブドウ栽培は素人の地域おこし協力隊員で、1年間、山梨県で研修をしました。戻ってきたら、新聞や雑誌に「地元期待のワイナリーで、若い移住者が頑張っている」と紹介され、「期待に応えなければ」と過度に反応してしまったのでしょうか。まだ知識・経験共に不足しているのに広い畑に違う品種を1本ずつ交互に植えるなど、自分なりの解釈で間違った栽培をし、大きな損失を出したのです。経営は1、2年停滞しました。その後ワインブドウ栽培の経験がある新しい工場長に変わって、軌道修正しました。

 起業などで人を雇用する場合、仕事や人生でさまざまな経験を積んで培った「プロ意識」を持っている人は、マネジメント力も高く、問題や課題にも落ち着いて対応します。

 はちのへワイナリーの立ち上がりとその後の経緯は、人材採用の重要性を改めて感じた出来事でした。

聞き書き・斉藤茂明


2022年10月15日号掲載

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