画展示の作家に選ばれ 信じてきた表現に自信
文化庁の海外研修後の2008年から09年は、私をさらにステップアップさせてくれた重要な三つの展覧会がありました。
まず、08年に多摩美術大学美術館で開催された「絵画のコスモロジー展」です。文化庁の作品買い上げや、海外研修制度に推薦してくださった中村隆夫さんが、3人の作家で構成されるこの企画に、私を選んでくださいました。この展覧会では、3人の作家の作品が並んで展示される会場とは別に、それぞれの作家に広い一部屋が与えられました。美術館の中に、私の作品世界を一つの空間として表現できたことは、私のキャリアとしては画期的な出来事でした。
同年に国立新美術館で開催された「未来を担う美術家たちDOMANI・明日展」は、文化庁の海外研修に参加した作家たちの選抜展で、毎年開かれているものです。例年は前年に研修に参加した作家から選抜されるのですが、この年は過去の海外研修経験者も含め、選ばれた作家の展覧会だったため、有名な作家が参加していました。そんな作家たちと並ぶことができ、しかも自然光を生かした広い美術館の中に自分の一部屋を作っていただき、多数の作品を展示することができました。
そして、09年に横須賀美術館が開いた「花 展 美と生命のイメージ」も、大変恵まれた展示となりました。花というテーマで、昔の日本画から現代作家まで、さまざまな切り口で作品を取り上げた大きな企画展で、現代の作家は、須田悦弘さんと私の2人だけでした。歴史的に有名な作品と共に、花をモチーフとして描く現代作家として取り上げていただいたことは、とても名誉なことでした。
さらに、この展示のために描いた大作「未知の記憶」は、展示後に横須賀美術館のコレクションとして収蔵され、常設展示スペースにたびたび展示されることになりました。ある年、コレクション作品を対象にした来館者の人気投票が行われ、多数の有名作家の作品が展示されている中で、私の作品は第2位となりました。その結果を報告してくれたのは、花展をキュレーションした、同館学芸員の富田康子さんです。
富田さんが花展の前に、いろいろな美術関係者に「花を描いている良い作家はいないか」と問い合わせた中で、富田さんが信頼している当時の茨城県の水戸市立博物館館長の寺門寿明さんが私の作品を推薦してくださいました。富田さんは長野まで来られ、私の作品をご覧になった上で、花展に取り上げてくださいました。寺門さんは私の作品をとても評価してくださり、長野に展覧会を見に来てくださることもあり、水戸市のアートワークスギャラリーでの個展も企画してくださいました。
オランダから帰国後、それまでかなわなかった美術館での企画展示の作家に加えてもらえたことで、多くの貴重な経験を積み、さらに自分がこれまで信じてきた表現に自信を持つことができました。
そして、この時期の大きな出来事として再婚があります。再婚相手とは、「スカイドア・アートプレイス青山」での個展当時、たまたまギャラリーの責任者だったことから出会いました。スカイドアは母体の会社の経営が悪化するなどの混乱状態になり、私のスカイドアでの展示はなくなりました。本来美術とは無関係の仕事をしていた彼も、経営コンサルタントの会社に転職し、接点はなくなりましたが、その後連絡を取り合う中で、10年以上の付き合いを経たのち、お互い再婚同士の入籍でした。
彼は東京在住で、出張で全国を飛び回る仕事であり、私は長野のアトリエで制作するという仕事の都合上、主に電話での会話が中心の別居結婚でした。彼は21年に仕事を引退し、東京の家を処分し、同居していた母親と共に長野に移住しました。長い別居結婚中も、お互いの状況にはさまざまな変化がありましたが、常に私の仕事のサポートをしてくれるありがたいパートナーです。
聞き書き・松井明子
2023年11月18日号掲載