身近にある機器の中で、最も便利で大事な物は何かと聞かれたら多くの人はスマホを挙げるでしょう。
必要な通信手段であるほか、アプリをインストールすることで、カメラ、アルバム、財布、地図、メモ帳、本、音楽プレーヤー、ゲーム、通帳など、さまざまな機能を果たしてくれます。
ある調査によれば、日本人が持つスマホアプリの数は平均で99個に上るそうです。では実際に使われているものはいくつだと思いますか? 38個だそうです。60個以上のアプリは使われないままメモリーを占有し、その結果、保存できる写真や動画の量が少なくなっているのです。
スマホを使い始めれば、まったく使わない不要なアプリであることに気づくはずなのに、多くの人は消去しません。ここで働く心理を「初期値効果」と呼びます。人の選択や行動が、あらかじめ設けられた初期設定に強く影響される効果です。
最初の状態を変えない理由は
▽初期設定がおすすめだと思ってしまう
▽変えると損をすると思う
▽単純に面倒―などです。初期設定の変更すら思いつかない人も多いことでしょう。
このような状況は生活の中で、しばしば見られます。例えばネット通販を利用すると、選択画面に「メルマガを受け取ります」という言葉とチェック欄があります。あらかじめ付いているチェックをクリックして消さない限り、メルマガが届く仕組みです。これはメルマガを届けるために購入者の初期値効果を利用している例です。
一方、地球環境に貢献する使われ方もあります。カナダのトロント大学図書館でプリンターの初期設定を「両面印刷」に変更したところ、紙の使用量が30%も削減されたそうです。初期値効果によって、紙の無駄を省くことにつながったのです。
このように、人間の無意識の心理に働きかけることで、さまざまな効果が生まれます。良心をもって働きかけることで、世の中を少しずつ良くすることも可能なのです。
(マーケティングコンサルタント)
(2021年1月1日号掲載)