19世紀の英国の文豪チャールズ・ディケンズの「クリスマス・キャロル」は、世界中で読まれている名作です。
主人公の初老の商人、スクルージは冷血な守銭奴でしたが、クリスマスの幽霊に自身の過去・現在・未来を見せられます。みじめな死にざまを知ったスクルージは改心し、お金よりも人間を大事にする善人となります。
この作品から読み取れる教訓の一つは「お金より大切な事がある」というものです。ただし、これを「けちくさい人間になるな」という教訓だと勘違いしてはいけません。なぜなら人間は無意識に、お金を無駄遣いしてしまうため、時には意識的にけちくさくなる必要があるのです。
無意識にお金を無駄遣いしてしまう人間の心理について、ノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー教授は、「メンタル・アカウンティング(心の会計)」と呼んで説明しています。人間には、無意識のうちにお金を分類してしまう心理があるのです。この理論によれば、人は、自分のお金を、どのように入手したのか、どんな名目のお金か―などで、無意識に区別し、使い方まで変えてしまいます。
3万円の予算のところ5万円のジャケットを買ってしまったとしましょう。その帰りに、喫茶店で千円のケーキセットを食べたかったのですが、我慢して300円のコーヒー1杯のみに抑えました。ジャケット購入で2万円の予算オーバーに対し、喫茶店で節約できたのは700円だけです。トータルで1万9300円のオーバーですが、浪費したという印象は薄くなります。これは「ジャケット用のお金」と「ケーキ用のお金」が分類され、一件の浪費と一件の節約という二つの行動が別々に行われたと認識されるからです。
合理的にお金を使うことは意外に難しいものです。ただ、常にお金は合理的に使うべきだと言いたいわけではありません。例えば、他人のためにお金を寄付する行為は、経済的には不合理かもしれませんが、世の中のためには大切な行為です。
とは言うものの、まず日常生活で合理的にお金を使うことは大切です。商売で財を成したスクルージのように、誰もが自由にお金を使えるわけではないのですから。
(マーケティングコンサルタント)
(2021年1月16日号掲載)