競い合って最も良い購入条件の人が買える取引「オークション」の始まりは紀元前500年だそうです。
当時は限られた人のものでしたが、現代のネットオークションは大勢の人が気軽に参加できます。
人気商品では、時間切れ間際まで入札金額が上がり続け、値段が高騰するケースがよくあります。実際に参加すると、自分の入札金額を超える入札がないよう祈る時の不安感、落札できた時の高揚感、満足感など、さまざまな気分を経験します。
お金を無駄に使ってしまう危険もあります。最後までこだわり続けて勝者となったものの、結果的に相場よりも高い値段で落札し、損をするケースです。これは「勝者の呪い」と名付けられた、ポピュラーな現象です。
ネットオークションが人を惑わすのは、行動経済学によれば「後悔の回避」によるものと考えられます。人は、物事の将来的な結果について予測し、不快な状態に陥り後悔するだろうと想定した場合、これを避けようとするのです。
例えば、絶版となった本やCDがオークションに出品された場合に「今、競り落とさなければ二度と手に入らず、後悔するかもしれない」として、「後悔の回避」の心理が働きます。
「回避」の方法としては、後悔しないように自重するか、逆に、後悔しないためにあえて行動を起こす―があります。
この場合、欲しい物が手に入らないと後悔すると考えるので、予算を上回る高い金額であっても落札しようとするのです。
ここでの問題が、もう一つあります。落札直後は散財したことを反省するのですが、届いた商品を手元に置くうちに、だんだん愛着が湧いてくるのです。これは、以前に本欄で解説した「保有効果」です。自分が保有する物に対して実際以上に高い価値を感じ取る心理です。これにより、高額で競り落としたことへの心の痛みや、判断を誤ったと反省したことを忘れてしまいます。
こうしてネットオークションで高額の無駄遣いをする過ちを繰り返すのです。もし皆さんが参加する場合には、よく注意して、ほどほどに楽しみましょう。
(マーケティングコンサルタント)
(2021年1月23日号掲載)