世の中には、豪華すぎる社屋、建物は大きくて立派なのに利用者が少ない公共施設など、過剰な投資に見える建設事業があります。
また、スマホのソーシャルゲームやゲームセンターのクレーンゲームなど、延々と時間をかけて続けてしまう行動があります。
事業とゲームは別物ですが、実は共通点があります。行動経済学における「サンクコスト効果」に影響される点です。Sunk(サンク)はSink(=沈む)という英語の完了形で、沈んでしまって戻らないという意味です。すでに支払って回収できないコスト(お金、時間、労力など)のことを「サンクコスト(Sunk Cost)」(埋没費用)と呼んでいます。
サンクコストは無視すべきなのですが、私たちはこれを無駄にしたくないコストと考えてしまうのです。その結果、続けるのは損だと分かっていてもやめられなくなります。
企業や自治体は、多くの社員や職員が時間をかけて事業を検討します。事業が進めば、投入する事業費用も増えます。途中でやめると過去の労力や投資が無駄になります。ゆえに、採算の合わない事業だと気づいても中止する判断ができず、事業を継続してしまうのです。
ゲームでも、お金や時間を費やせばテクニックが身に付いたり、ゲーム上の特権などが手に入ります。これも、すでに使った費用に引きずられて、やめれば無駄になると続けてしまいます。
身近な例もたくさんあります。食べ放題では、払ったお金の元を取ろうと思うあまり、満腹になっても食べ過ぎてしまいがちです。また購入後にサイズが合わないと気づいた靴を、なかなか捨てられないのも同じ理由です。
ほかにはビジネスマンが、転職や独立の好機をサンクコスト効果で逃すこともあります。頑張って積み上げた社内の地位や評価を失いたくないと思うあまり、現在の会社にとどまる選択をしてしまうのです。
全てに共通するのは過去に固執する点です。自分が大切にしているモノやコトを今後どうするべきかについて判断する際は、サンクコストを切り離したうえで、未来も価値が続くのかどうか考えることは重要かもしれません。
(マーケティングコンサルタント)
(2021年1月30日号掲載)