シェークスピアの「ロミオとジュリエット」は、対立し合う名家の息子と娘の悲恋の物語です。
恋に落ちた2人に数々の悲劇が襲うのですが、2人は最後まで愛を貫こうとします。こうした反対や苦難が大きいほど燃え上がる感情を、行動経済学で解釈してみます。
そもそも人間は無意識に、一貫性のある選択や行動をしようとします。これを「一貫性の原理」といいます。この原理により、行動を制止されてもやり遂げようとし、制止する力が強いと、なおさら欲求は強まるのです。一方で一貫性が保てず、選択や行動が正当化できなくなると気持ちが不安定になります。こうした状態や、そこで覚える不快感を「認知的不協和」と呼びます。
このストレスから逃れるために人は、自分自身を無理な理屈で納得させることがあります。一貫性の原理に反する行動に変更したケースで、新たな行動の方が正しいと信じこもうとする人もいます。
喫煙の例で解説しましょう。喫煙できる場所が減ろうと、たばこの値段が上がろうともたばこをやめなかった人がいるとします。これは一貫性の原理によるものです。しかし、結婚し、健康を心配する妻から禁煙を強く求められたらどうでしょう。彼の心に認知的不協和が生まれます。
結果的に禁煙できたものの、認知的不協和はなくならないので、心の中の不快感を解消しようとします。例えば「家族のために禁煙もできないのは駄目な男だ」といった理屈で自分を納得させます。さらに周囲にも禁煙を強く勧めます。このように行動の変更や、矛盾を正当化しようとした結果、以前とはつじつまの合わない、不合理な行動に至ることがあります。
ロミオとジュリエットがいちずな恋愛に燃えたのは、2人の一貫性幻想が強かったためです。もしかしたら両家の親たちも若い頃に恋愛を制限されたことがあり、若い2人の恋愛を妨害することで、自身の認知的不協和を解消しようとしたのかもしれません。逆にそれが2人の恋の炎に油を注いだ可能性もあります。
行動の一貫性は大事ですが、対応次第で大きなやけどを負うことになりかねません。
(マーケティングコンサルタント)
(2021年2月13日掲載)