「自分へのご褒美」という言葉は日常的によく使われます。
頑張った自分をねぎらい、ぜいたくな買い物をしたり、ごちそうを食べたりするのは悪いことではありません。しかし、これは不思議な表現です。褒美をあげるのも、もらうのも自分であり、そこに客観的な判断の根拠はありません。それでも使われるのは、ご褒美が妥当かどうかよりも、自分をねぎらう根拠として「ご褒美だから」という理由を付けて納得できるからです。
人間が行動する際に、シンプルな理由やストーリーに納得できれば、理由に矛盾があったとしても気にならないものです。この心理は「理由に基づく選択」と呼ばれます。
行動経済学者のエルダー・シャフィールはこれを証明する実験を行いました。離婚を話し合っている夫婦が、子どもの親権で争っているとします。一方の親は年収、仕事する時間、子どもとの関係の強さ、健康状態など全てにおいて「平均的な親」です。もう一方は、収入は平均以上、子どもと緊密な関係を望みます(プラス属性)が、仕事で出張が多く不在がち、また健康上の問題(マイナス属性)も少しあります。
実験参加者にまず「2人のどちらに親権を与えるべきか」と質問します。すると後者を選ぶ人の割合の方が高いという結果でした。ところが「2人のどちらに親権を与えるべきでないか」と、逆の質問をしても、やはり後者を選ぶ割合が高かったのです。そうなったのはどちらの質問でも、後者の親の方が「選ぶ理由」を明確にしやすかったためです。
例えば最初の質問では「しっかりとした収入があれば、親が不在の間にベビーシッターを雇うなど問題は解決されるので親権を与えてもよい」と回答できます。次の質問ならば「収入が高くても、長く子どもと接することができないならば親権を与えるべきでない」と考えられます。この実験で明らかなように、人間は理由と呼べる何かに納得できれば、自信を持って行動できるのです。
自分へのご褒美を連発してしまう人は、自身が「理由に基づく選択」に陥っていないか、もう一度よく考えてみることをお勧めします。
(マーケティングコンサルタント)
(2021年2月20日号掲載)