日米通算28シーズンをプレーし、2019年に45歳で引退したイチロー選手の通算安打数4367本はギネス認定の世界記録です。
彼のような打者を評価する指標として、最も一般的なのは「打率(=通算安打数÷打数)」です。
プロ野球では年間の打率トップの打者を「首位打者」と呼び、イチロー選手はこれを9回も獲得しています。しかし本人は「打率」より「安打数」が目標だと公言していました。イチロー選手が意識していたかは分かりませんが、「安打数」を目標にすることには心理的メリットがあります。
打率は下がることもありますが、安打数は、試合に出場を続ける限り、同数か増える一方で下がることはありません。下がる可能性のある打率を気にするよりは、安打数を増やすことを目標にした方が、試合に臨む意欲が湧くのではないでしょうか。
安打数を目標にすると、私たちの心の中で働くのが「上昇選好」です。この心理は、連続して起きる物事に対して、時間の経過とともに満足が拡大する、あるいは不満が減少することを好む傾向のことです
常に上下する「打率」を気にすると、心は不安定になります。しかし「安打数」に注目していれば、下降することのない「上昇選好」が働き、気分良くプレーできるはずです。
この考え方は日常でも役立つことがあります。営業の仕事をするビジネスパーソンならば、会社に報告する営業成績のほかに、「上昇選好」を取り入れた評価指標を設けるのです。小額の案件を多く獲得するタイプの人は「受注件数」を、受注件数は少ないが大型案件を獲得するタイプなら「受注金額」を重要視します。受注率のように上下を繰り返す指標ではなく、必ず上向きになる指標を設けることで、気分良く行動できるように自分自身を誘導していきます。
評価指標は、必ずしも会社の上司が部下を管理するためだけの道具ではありません。だんだん良くなっていく評価指標を自分で定めることでモチベーションが高まります。自分の心理を自分で管理するのはとても大事なことであり、工夫次第で良い方向へ管理できるでしょう。
マーケティングコンサルタント
2021年6月26日号掲載