「晴れ男」「晴れ女」と自称する人がいます。
冷静に考えれば、人間が自然現象を左右できるはずはないのですが、大切な日に願った通りの晴れになった経験が重なると、自分には天気をコントロールできる力があるかのように思い込むのでしょう。
このように考える原因は「コントロール幻想」です。これは、自分の力ではコントロールできないものに対しても、自分の意志が反映させられると思い込む心理です。実は多くの人が、この心理の影響を受けています。例えば、じゃんけんで必ず勝てる気がする、転職してもうまくいくと確信する、などです。
ハーバード大学のエレン・ランガー教授らは、この心理の影響を検証するために老人ホームで実験を行いました。まず入居している高齢者を2グループに分けます。一方のグループは、自分たちで、自室の家具の配置、娯楽映画を見る曜日などを決められるようにしました。もう一方は、全て老人ホーム側が選びました。
こうして一定期間過ぎた後に質問すると、自分で選択したグループの高齢者は他方よりも、自分が幸せで活動的だと感じると答えました。また、その高齢者たちは健康状態までも改善したのです。しかも、この効果は一時的なものに終わらず、1年半後まで持続したといいます。
自分で物事をコントロールできていると自覚することは、肉体と精神の両面に対して好影響を与えるのです。しかしながらコントロール幻想には危険もあります。自分の力が及ばない物事までもコントロールできると思い込んでしまうのです。
その場合、物事のリスクに対して客観的に正しい判断ができなくなり、自分に都合の良い結果が出せると錯覚します。分かりやすい例が新型コロナウイルスの無症状拡散です。「自分はかかるわけがない」「自分だけは大丈夫」という自信(=コントロール幻想)を持つ人は、感染しても無症状だと、何も自覚しないまま、いろいろな所へ出かけて感染を広げてしまいます。
コントロール幻想は、毒だけでなく、薬になる場合もあります。この心理の功罪を自覚し、思い込み(=幻想)なく自分自身をコントロールできるように心掛けましょう。
マーケティングコンサルタント
2021年7月17日号掲載