前回紹介した「スポットライト効果」は、自分が実際以上に他人から注目されているという錯覚でした。
それとは逆に、自分が特別ではなく、他の人々と同じだと錯覚する傾向もあります。これは「フォールスコンセンサス(偽の合意)効果」と呼ばれます。
人が「周囲の人々も自分と同じ考えをもち、同じように判断する」とみなす心理です。皆と同じだと考えることによって、自分が多数派であり、常識的な普通の人間だと思いたいのです。
米国の社会心理学者リー・ロスは、これを証明する実験を行いました。参加者の学生に対して、体に広告ポスターを貼ったサンドイッチマンになり、キャンパスを歩き回るよう依頼します。これを引き受けた学生と、断った学生の2グループに分け、双方に「同じことを別の学生に頼んだら、承知してくれると思うか」と質問します。
この結果、引き受けた学生が「他の学生も引き受ける」と答えた割合は6割、「他の学生は断る」と答えた割合は4割でした。
逆に依頼を断った学生が「他の学生は引き受ける」と答えた割合は3割、「他の学生も断る」と答えた割合は7割でした。どちらのグループも、他の学生が自分と同じように判断すると考えたわけです。
この心理は、さまざまな場面で影響を及ぼします。例えば仕事を休むときに、電話で報告するのが常識だと思う人と、メールの連絡で構わないと思う人がいます。「フォールスコンセンサス効果」によって、互いに自分が普通だと思い込んでいるとトラブルになりかねません。
一生懸命に考えた末に決めて提案した家族旅行の行き先が家族に反対されてしまうようなケースも「フォールスコンセンサス効果」の影響です。自分と同じ希望(旅行の行き先)をほかの皆も持つものだと勘違いしたからです。この心理は、家族などの親しい間柄で顕著に見られます。
「親しき仲にも礼儀あり」ということわざがあります。親密な間柄でも礼儀を重んじるべきであるという意味ですが、「親しき仲にも合意あり(親密な間柄でも合意し合うように努めるべきである)」ということわざが生まれてもよいのかもしれません。
マーケティングコンサルタント
2021年8月21日号掲載