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八犬伝

=2時間29分

長野グランドシネマズ(☎︎050・6875・0139)で10月25日(金)から公開

(C)2024 『八犬伝』FILM PARTNERS.

馬琴と北斎がからむ 「虚」と「実」の世界交錯

 一人の作家が、一人の画家に語りだした—。映画「八犬伝」の原作、山田風太郎著「八犬伝」はこんな書き出しで始まる。作家は、「南総里見八犬伝」を著した人気戯作者滝沢馬琴。浮世絵師は「椿説弓張月」など馬琴の作品7点の挿絵を描いた葛飾北斎。江戸時代のファンタジー小説と、実在した2人が登場する、「虚」と「実」の交錯する実写映画だ。


 安房の国の城主、里見義実は邪悪な妖婦玉梓に末代まで呪われてしまう。義実の娘、伏姫は里見家を救うため愛犬八房と城を去り共に命を落とすが、伏姫を守っていた数珠の八つの玉「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」が八方に飛び散り、8人の剣士が生まれた。時も場所も違いながらも8人は試練の末に、不思議な運命に引き寄せられるように出会い、呪いを解く戦いに立ち上がる。


 馬琴(役所広司)の語る奇想天外な物語に、感心しきりの北斎(内野聖陽)だが、互いの実力を認めながらも意見が合わず、けんかもしばしば。依頼された挿絵を断りながらも、話の続き聞きたさに、馬琴のもとを訪れている。馬琴の執筆の手伝いをするのは、病弱な長男の宗伯(磯村勇斗)。家庭を顧みない馬琴に妻のお百(寺島しのぶ)は、常に愚痴をこぼすばかりだ。


 28年もの歳月を費やした大作を、この世に送り出した馬琴とはどんな人物なのか。もともとは武家の五男坊として生まれたが、身を固めるため27歳で履き物屋の未亡人、お百に婿入り。戯作者の道を進む馬琴は次々と作品を発表し、ベストセラー作家へと上り詰める。その人気の一翼を担ったのが北斎の挿絵だった。


 馬琴と北斎が向かい合う「実の世界」と、八犬伝の「虚の世界」を行き来しながら、2人の天才の奇妙な友情と生きざまが巧みに描かかれてゆく。丁々発止の会話の面白さ。役所広司と内野聖陽の名優同士のシーンに、役者が違うと見ほれてしまう。さらにファンタジー映画の部分だけでなく、芝居小屋で繰り広げられる鶴屋南北の「東海道四谷怪談」「忠臣蔵」など芝居の中の芝居まで、何層にも重なった仕立てが面白い。生涯をかけて馬琴が渇望した「勧善懲悪」、の世界は圧巻だ。

日本映画ペンクラブ会員、ライター


2024年10月19日号掲載

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