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鹿の國

=1時間38分

長野ロキシー((電)232・3016)で公開中

(C)2025 Visual Folklore Inc.、

諏訪大社の謎の神事 生き神様の少年再現

 極寒の諏訪湖で氷の湖面に現れる自然現象「御神渡り」は、諏訪大社の神様の通り道ともいわれてきた。自然そのものを御神体とする古からの信仰の姿を現在に伝える諏訪大社では年間200もの神事が行われているという。「鹿の國」は、信仰や考古学、民俗学の視点で地域に生きる人々の姿を捉えながら、長らく畏怖と謎に包まれてきた中世の神事の再現に挑んだドキュメンタリー映画だ。


 諏訪大社には「鹿食免(かじきめん)」と呼ばれる日本で唯一のお札がある。そのお札を買い求めるのは、4月に行われる御頭祭(おんとうさい)に供える鹿肉を献上する猟師だ。お札を授かることで動物の命を奪っても罰が当たらないとされている。


 祭礼の記録の一文に「鹿なくては御神事はすべからず」とある。江戸時代には75頭もの鹿の生首が並べられていたという。なぜ鹿なのか。


 移り変わる四季とともに、さまざまな神事をカメラは捉えてゆく。自然と人間の営みが寄り添い、静かな時が流れる。その対極に描かれるのは、数えで7年に1度の「御柱祭」。人々の情熱と興奮が、静と動のコントラストを生み出す。


 注目すべきはおよそ600年前に途絶えてしまった「御室」と呼ばれる神事の再現だ。村人たちが神様のために儀式や芸能を行う神事だが、室町時代からの記録には断片的なものしか残されていない。謎の神事を再現させたのは、ネパールやチベットなどで生と死の文化を追い続けた弘 理子(ひろ りこ)監督だ。選ばれた少年が白装束に身を包み生き神様となる。まるでタイムスリップしたかのような、不思議な感覚に陥るシーンだ。


 3年の歳月をかけて丹念に追い続けた風土記のような映像から生命の息吹があふれ出す。動物や草花、そして精霊たち。森羅万象への畏敬の念と祈りの心が湧いてくる。日本には美しい四季があることを思い出させてくれる。

(日本映画ペンクラブ会員、ライター)


 

【舞台あいさつとサイン会】

▽2月1日(土)、北村皆雄プロデューサーが、自身の監督作品「倭文(しづり)」(2月6日まで限定上映)12時からの回上映後と、「鹿の國」15時40分からの回上映後に

▽2月2日(日)、弘理子監督が「鹿の國」11時55分からの回上映後に


2025年2月1日号掲載

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