=2時間3分
長野グランドシネマズ(☎︎050・6875・0139)で9月27日(金)から公開
(C)2024「Cloud」製作委員会
「転売ヤー」の主人公 恨み・ねたみの標的に
見知らぬ者同士がネットでつながり、いとも簡単に犯罪に手を染める。近年、闇バイトによる犯罪が増え、凶悪化している。「Cloud クラウド」は、黒沢清監督がネット社会の闇を描いたサスペンススリラーだ。
町工場で働く吉井良介(菅田将暉)にはもう一つの顔があった。ネットのオークションサイトなどを利用して高額販売する「転売ヤー」だ。金になりそうな品物を相手の弱みに付け込み安く買いたたき、魅力的な商品に仕立て上げ高く売る。資金に余裕ができた吉井はあっさり工場を辞めると、郊外に事務所兼自宅を借りて恋人の秋子(古川琴音)と暮らし始める。仕事もプライベートも軌道に乗り始めた矢先、吉井の周囲に不審な出来事が次々と起こる。
ある日突然、見知らぬ者同士が徒党を組んで暴力を振るってくる。類似事件が報道されるたびに、人ごとで済まされない思いに襲われる。
こうした現象がアクション映画の題材になるのではと感じた黒沢監督が書き上げた脚本は、人間の心の闇を深く捉え、見事なサイコサスペンスへと昇華させている。
炎上、誹謗中傷、フェイクニュース…。身元も顔も隠したまま憂さ晴らしに夢中になる人々。ネットが生み出す負のスパイラルはとどまることを知らず、大きな社会問題となっている。
吉井自身の知らないところで恨み、ねたみが増殖していく。吉井はなぜ標的になったのか。インターネット社会に潜む狂気に翻弄(ほんろう)され、日常が破壊されてゆく恐怖は計り知れない。
吉井自身、金もうけのためなら平然と人をだます、悪らつな一面を持つ。商才はなかなかのもので、しかも罪の意識はない。
反感を買いそうな人物なのに、どん底からはい上がろうともがく純粋さが見え隠れし、好感を誘う。菅田将暉の演技力と存在感を、黒沢監督は称賛する。
来年3月開催される米国アカデミー賞国際長編映画賞(旧外国語映画賞)部門の日本代表作品に選ばれたことでも映画界の注目を集めている。
日本映画ペンクラブ会員、ライター
2024年9月21日号掲載