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ボレロ 永遠の旋律

=2時間1分

長野千石劇場(☎︎226・7665)で9月6日(金)から公開

(C)2023 CINE-@ - CINEFRANCE STUDIOS - F COMME FILM - SND -FRANCE 2 CINEMA - ARTEMIS PRODUCTIONS

「ボレロ」誕生の軌跡 謎に満ちた生涯描く

 今も世界中で演奏され続ける不朽の名作「ボレロ」。「ボレロ 永遠の旋律」は、その作曲者で来年生誕150年を迎えるフランスのモーリス・ラヴェルの伝記映画である。

 1928年のパリ。スランプに陥ったラヴェル(ラファエル・ペルソナ)は、振付師イダから新作バレエの曲を依頼されたものの、曲が書けず苦しんでいた。さらに彼を悩ませたのは、長年ミューズ(女神)と慕う人妻ミシアとのかなわぬ愛だった。困難を乗り越えようやく曲が完成し、オペラ座で上演する日、斬新かつシンプルなラヴェルの音楽はイダの官能的なバレエとともに、観客に衝撃を与える。ラヴェル本人の意図とは全く違い、「ボレロ」は想像を超えた世界へと羽ばたく。

 スネアドラムのリズムに導かれ、わずか2種類の旋律が、楽器を替えて繰り返される17分間。一見同じリズムを繰り返す、単調な旋律でありながら、大きなうねりに包まれフィナーレへと導く。映画が終わった後も、頭の中に刻み込まれたリズムは、消えることなく鳴り続け、ボレロの魔法にかかったままだ。

 生涯独身を貫いたラヴェルの人生には、影響を与えた女性たちの存在があった。息子の才能を信じ励まし続けた母親、家政婦、恋人、女友達、娼婦たち。彼女たちとの記憶がラヴェルの人生を彩ってゆく。音に敏感で、工場の規則的な機械音にもインスピレーションを受けたという、まさに時代の空気を写し取った音楽だった。

 アンヌ・フォンテーヌ監督はラヴェル研究の第一人者マルセル・マルナの原作に、さらにイマジネーションを加え、謎に満ちたラヴェルの生涯を描き出す。 フォンテーヌ監督の情熱は、ラヴェルが実際に暮らした実家での撮影を許されたことでも伝わってくる。

 ラヴェル役のラファエル・ペルソナは、「黒いスーツを着た男」(2012年)で、先日、この世を去った大スター、アラン・ドロンの再来と称された。端正なルックスで、孤独の影をにじませるたたずまいが美しい。ラヴェル作品はもちろんショパンなど、クラシック音楽に満ちあふれた(芳)(ほう)(醇)(じゅん)な時間に酔いしれる魂の物語だ。

 日本映画ペンクラブ会員、ライター


2024年8月31日号掲載


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