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十一人の賊軍

=2時間間35分

長野千石劇場(☎︎226・7665)で11月1日(金)から公開

(C)2024「十一人の賊軍」製作委員会

罪人を戦の最前線へ 「生きる」ことへの執念

 江戸幕府から明治新政府へと変わる時代の転換期に起きた戊辰戦争。「十一人の賊軍」は、薩摩藩・長州藩を中心とする新政府軍(官軍)と旧幕府軍が戦った戊辰戦争を背景に、最大の激戦となった北越戦争を基に描いた人間ドラマだ。


 陸奥国、出羽国、越後国の諸藩の奥羽越列藩同盟軍に加わっていた越後国の新発田藩は、旧幕府軍である同盟を裏切り、密かに新政府軍に寝返ろうとしていた。城代家老の溝口内匠(阿部サダヲ)は一計を案じる。新政府軍の進撃を食い止めるため、死刑が決まっていた罪人たちを急きょ集め、決死隊をつくった。新発田藩の命運を握る砦(とりで)を守った暁には無罪放免とする約束で。


 家老の命令で罪人らと共に戦場に赴く腕の立つ藩士は鷲尾兵士郎(仲野太賀)らわずか数人。罪人は侍殺しのかご屋の政(山田孝之)、イカサマ賭博師の赤丹(尾上右近)や、姦通の色男に生臭坊主、女郎、密航者ら罪も身分もバラバラだ。対する官軍は新政府軍の先鋒を務める参謀の山縣狂介(玉木宏)率いる部隊。武器も兵士の量も各段違う相手との、「生きる」ことへの執念をかけた壮絶な戦いが始まった。


 「仁義なき戦い」シリーズなどで知られる名脚本家笠原和夫の原案で過去に一度、企画が持ち上がったものの実現せず、幻の脚本となっていた。この存在を知った白石和彌監督が、あらたに「孤狼の血」シリーズの脚本家、池上純哉と再タッグを組み、オリジナルで脚本を完成させた。権力者が罪人たちを最前線に送る—。使い捨てにされる命の不条理さを真正面から描きたかったと、白石監督は作品に込めた神髄と魅力を語る。


 底辺で生きてきた名もなき罪人たちはまさに「一寸の虫にも五分の魂」だ。武力では到底かなわない相手といかにして戦うのか、知恵を巡らすアイデアの面白さ。その背景にあるそれぞれの人生ドラマが浮かび上がる。さらに見どころなのがアクションシーン。伝統的に時代劇に定評のある東映ならではの本格的な殺陣と、罪人たちの粗削りで泥臭い攻防が斬新だ。


 「勝てば官軍、負ければ賊軍」。勝ったほうがすべて正しく、負ければ悪となる。正義とは何なのか、思いがけないラストに自問せずにいられない。

 日本映画ペンクラブ会員、ライター


2024年10月26日号掲載

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