年1日開館した黒姫の「落葉美術館」
造形の世界に生きた2人 軌跡と喜びを伝えたい
娘の日菜さんら3人が編集
1989年から2004年までと2015年の計17回、黒姫山の麓、信濃町野尻にある自宅を開放し、紅葉の時季に一日限りで開館した「落葉美術館」があった。この活動を続けた、共に絵本作家で画家の平山英三さん(1933〜2020年)と和子さん(1934〜2022年)夫妻が残した未発表の絵を集めた遺作集が刊行された。
タイトルは「平山英三・平山和子自然・造形・絵本の世界を歩いた二人の画家」。一人娘の平山日菜さん(60)=米国マサチューセッツ州在住=と、94年から落葉美術館を中心に2人の仕事の助手を務めた杉山良子さん(68)=信濃町、英三さんの教え子で装丁家の久住和代さん(74)=東京都=が編集した。日菜さんは序文に「造形の世界に生きた二人の軌跡と喜びをわずかでも伝えることができ、それが亡き父と母へのささやかな手向けとなることを願う」とつづった。
夫妻は87年、50代の頃に東京から移住。絵本の仕事を続ける一方、その2年後からは和子さんが水彩で丹念に描いた美しい落ち葉の絵を、英三さんが年に秋の一日だけ自宅で展示する「落葉美術館」を開いてきた。2人が「林のなかの、ほんとうの落ち葉の美術館の分館の一つともなれば」と願った小さな美術館には、毎回全国から大勢の人たちが訪れた。
和子さんが亡くなった後、日菜さんと杉山さんで家の整理を始めたところ、落ち葉の作品だけでなく、絵本作家時代の原画や下描き、さまざまな試し描き、各地でのスケッチなど、小さなものまで含めれば何千枚もの絵が残されていた。夫妻が生涯に手掛けた60冊を超える絵本と本の原画だけでもかなりの数にのぼったというが、それ以上に未発表の絵がたくさんあった。
雑誌の扉や目次として、作品の中央を白抜きして掲載された英三さんの鉛筆で細密に描かれた「布地」の原画を初めて見たときは、日菜さんも杉山さんも「雑誌の小さな1ページであっても、決して力を惜しまずに丁寧な仕事をしてきたことに驚き、目を見張った」。
これらを一冊の本にまとめることを決め、昨年6月ごろから編集作業を進めてきた。
本は、絵本作りを始める以前も含めた2人の東京での写生と1970年代初頭からたびたび通うようになった岩手県沢内村での写生、和子さん、英三さんそれぞれの絵本や挿絵、カットの仕事、黒姫での2人の仕事や和子さんの落ち葉の絵を集めた5章で構成する。
日菜さんは「自分の両親ながら絵を描くことに一生まい進をした清い生き方の2人だったと思う。とても気持ちの良い本になったので、これを手に取って楽しんでくださる方がいればうれしい」と笑顔を見せた。
A5判、360ページ、4180円。購入希望者は(HP)https://www.hirayamaart.comへ。
記事・写真 中村英美
黒姫童話館童話の森ギャラリーで「平山英三・平山和子追悼展〜自然を見つめた二人の画家」開催中
2人が描いた絵本や挿絵の原画、それらの基となった写生、移住後の活動の中心になった「落葉美術館」で発表した落ち葉の絵など計121点を展示。「落ち葉の季節に、黒姫の自然を愛してくれた2人の原画を見て、周辺に広がる自然も堪能してほしい」と同館。
11月30日(土)まで。10月31日(木)休館。開館時間は9時から17時。入館料は一般800円、小中学生500円。
(問)同館☎︎255・2250
2024年10月19日号フロント