top of page

雪の花 —ともに在りて—

=1時間57分

長野グランドシネマズ(☎︎050・6875・0139)で公開中

(C)2025映画「雪の花」製作委員会

天然痘治療に挑んだ 江戸時代の医者描く

 江戸時代末期、死に至る病と恐れられていた疱瘡(天然痘)から人々の命を救おうと敢然と病に挑んだ医者がいた。「雪の花—ともに在りて—」は、実在した笠原良策という医者のひたむきに生きる姿を描いた吉村昭の小説の映画化だ。


 疱瘡が大流行。しかし有効な治療法はなく患者を隔離するのみ。患者を救いたくともできない。無力感を抱いていた福井藩の町医者で漢方医の笠原良策(松坂桃李)は京都の蘭方医、日野鼎哉(役所広司)に教えを請い、異国では予防接種の種痘という方法があることを知る。しかし、外国から「種痘の苗」を取り寄せるのは至難の業。しかも治療を反対する藩医の妨害など、思いがけない困難が待ち受けていた。


 医療知識の普及している現代と違って、天然痘患者の膿(うみ)を感染していない人の皮膚に植え付ける治療法に江戸時代の人々が恐怖を抱くのは当然のこと。それを実現させるまでの苦難は想像にあまりある。成し遂げたのは真摯(しんし)に病人と向き合ってきた良策を信じる多くの人々の存在だった。


 巨匠・黒澤明監督の下で助監督を務めてきた小泉堯史監督と共に、撮影や美術など同じく黒沢組で技術を培ってきた熟練のスタッフたちが、フィルムに刻み込んでゆくのは人間の生きざまだ。


 黒澤明監督の遺作シナリオを小泉監督が映画化した「雨あがる」(2000年)でも見せた夫婦愛の絆はこの作品でも健在だ。医学に人生をかける夫のために陰になり日なたになり支える妻、千穂(芳根京子)の凜としたたたずまいが潔い。


 小泉監督が大切にするのは人間のありかただけではない。彼らが生きた時代を再現するために、ロケーションにもこだわる。病人がいれば山奥の村まで足を運ぶ良策たちが歩く山の緑の輝き、涼やかな滝の流れ、ドラマの間に映し出される自然の風景の美しさが目を奪う。物語の舞台となる福井では大野市指定文化財の武家屋敷でも撮影が行われている。


 名を求めず利を求めず、そこにあるのは命を救いたいという医者としての願い。新型コロナ感染という世界的な危機を身近に体験してきた私たちだからこそ分かり合える、医療の崇高さと誇りがここにある。

(日本映画ペンクラブ会員、ライター)


2025年1月25日号掲載

 © weekly-nagano  All rights reserved.

bottom of page