=1時間45分
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用意できないと罰が… 奔走する少女の物語
1990年代、サダム・フセイン大統領の独裁政権下にあったイラク。戦争と食料不足に苦しむ中、国民は大統領の誕生日を国民挙げて盛大に祝うように強制されていた。「大統領のケーキ」は、イラク国外ではあまり知らされてこなかった事実を基に生まれたヒューマンドラマだ。
大統領の誕生祝賀会に向けて、9歳の少女ラミアの通う小学校ではくじ引きで役割が決められ、ラミアは、「ケーキ係」に当たる。「飾り付け係」「花係」「果物係」などよりもずっと名誉ある係なのだが、祖母と2人暮らしの貧しいラミアにとって材料をそろえるのは至難の業だ。だが用意できないと罰が与えられる。材料調達のため祖母と町へ出かけるが…。
恐怖政治で国民を支配しようとする独裁者に子どもたちが叫ぶ「魂と血をフセインに捧げる!」。一方で、体制に組し、密告する教師たち。そんな下でもバグダッドの町で知恵を働かせ、親友の少年サイードと奔走するラミア。ずる賢い大人との駆け引きに、次第にたくましさを増してゆく。
全編イラクで撮影され、しかも実際の史跡で行われているのも大きな見どころだ。チグリス・ユーフラテス川が流れる大地に誕生したメソポタミア文明。イラク南部の湿地帯は聖書で「エデンの園」と記された場所なのだそうだ。そんな水辺の風景が美しい。
湿地帯に住むラミアは小船を操り、朝の光に輝く水辺のアシの間を抜けて登校する。夕べには浮島に立つ家々の揺らぐ明かりが幻想的だ。だがフセイン政権は湿地帯を大規模に破壊し、9割以上が失われてしまったそうだ。原題のアラビア語のタイトルは「葦の王国」。皮肉にも崩れやすい砂上の楼閣という意味も含まれているそうだ。
脚本も手掛けたハサン・ハーディ監督は、戦時中のイラクで育ち、後にジャーナリストとして活躍した。くじ引きでその後の人生まで変わってしまう理不尽さに対する葛藤や罪悪感など、自身の子ども時代の体験から生まれた物語だ。エンドロールで、当時のフセインの誕生日の実際の映像が映し出される。
カンヌ国際映画祭でイラク映画史上初となる新人監督賞など2冠受賞、アカデミー賞・国際長編映画賞イラク代表に選ばれている。
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
2026年8月8日号掲載
