50 糖質は 「非常食」 ! ~「高糖質」が有効なケースも

 ここ最近、全世界で糖質制限ダイエットが流行し、私自身も学会発表、論文、書籍などで糖質制限の有効性を立証してきました。しかし、ほかの方が書かれた糖質制限にまつわる本などを読んでいると、「糖質は悪者」というような内容が多く、私は心の奥底で、「糖質は本当に体に悪いのか? それなら第2次世界大戦前後、高度経済成長期を生き抜いた先人たちはどうしてご飯を一粒残さず食べるように、糖質を重宝してきたのか?」という疑問を持っていました。

 2018年4月、私が松本大学で糖質制限の講演をした時には、「先生は、肥満や糖尿病という病気の観点から糖質を捉えていますが、スポーツトレーナーからすると、糖質はエネルギー効率が高く、先生とは糖質に対する考え方が違います」とスポーツトレーナーの方から指摘されたことがありました。そんな中で、ある時このような考えが私の脳裏をよぎりました。「糖質は非常食だ! 昔で言えば、戦争に行く、朝から晩まで農作業に従事するような重労働を行うようなとき、現代ではスポーツ選手のような活動量の多い人に最適の栄養素なのだ!」と。

 歴史上の人物では、織田信長は1560年桶狭間の戦いで10倍近い数を誇った今川義元に大勝利しますが、出陣の直前に現代でいうお茶漬けである「湯漬け」を立ったままかき込んだと伝えられています。劣勢の戦いに120%以上の力を出すために、エネルギー効率の高い「糖質」を直前に摂取したのです。戦の天才信長は「糖質」が非常時に有効であることを体感的にわかっていたのかもしれません。

 私たちの一世代前の先人たちの生活は肉体労働が多く、エレベーター、自家用車という便利なものも少ない時代でした。井戸の水を毎日くみ上げ、人力で掃き掃除、雑巾がけを行い、電気・ガスがないために、薪(まき)を割ったり、火をおこしたりという生活をしていたのです。現代の生活からみれば、もはや非日常であり、必然的に日々の活動量は多く、比較的安価でエネルギー効率が高い米(糖質)を重宝したのだと思います。

 現代では、スポーツ選手、例えば競技マラソンのランナーはエネルギー切れでマラソン中にガス欠しないように、前日にたくさんの糖質をとる選手が多いようです。糖質をうまく利用することで、高タイムを捻出しているのだと思います。野球のイチロー選手は、大リーグで現役の時痩せないようにすることに必死で、昼食にハンバーガー2個、チーズバーガー2個、ポテトを食べて、コーラも普通に飲むというような生活をしていたとテレビで言っていました。

 スポーツではないですが、若手の将棋棋士として有名な藤井聡太棋士の対局中の「勝負めし」というのが一時テレビでよく報道されていました。「丼物」に「お菓子」など、糖質のオンパレード。さすがに糖質の取り過ぎではと思いましたが、赤ら顔になってまで次の一手を考えている藤井棋士を見て、脳で大量のエネルギーを短時間に要しており、高糖質が有効なのだろうと思いました。

 名前は忘れましたが、直木賞を受賞された作家の方が「大盛りラーメンを食べた後は文章作成がはかどる」とテレビで言っていました。やはり短時間で大量のエネルギーを消費するために、直前の高糖質は理にかなっているのかもしれません。

 ではみなさんはいかがでしょうか。デスクワークの日々で、自動車での移動、冷暖房完備の中で仕事をし、家に帰れば、特に運動することもなく、1日3回のご飯に加え、テレビを見ながらお菓子や果物を頬張る、というような方が多いのではないでしょうか。このように平和で活動量の少ない大半の現代人にとって、糖質の過剰摂取は、肥満や糖尿病へ突き進んでいく元凶なのです。

 〈第4土曜日に掲載します〉

2026年4月25日号掲載

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