「逆流性食道炎」とは、胃の内容物(主に胃酸)が食道に逆流することにより、食道に炎症を起こす病気です。食後や就寝中などに「胸やけがする」「酸っぱいものや苦いものが上がってくる」などの症状が頻繁に起こる場合、逆流性食道炎の可能性があります。

食道と胃のつなぎ目は横隔膜の位置にあって狭く、下部食道括約筋という筋肉によって、食べ物を飲み込む時以外は食道を閉めて胃の内容物を逆流させないようにしています。しかし、加齢によって下部食道括約筋の筋力が低下し、胃と食道のつなぎ目の締まりが緩くなると、胃の一部が横隔膜から食道側へずり上がってしまう「食道裂孔ヘルニア」という状態になってしまいます。
この食道裂孔ヘルニアは、高齢者だけでなく、腹圧が高くなる肥満の人にも多く見られ、猫背など背骨が曲がっている人、便秘症の人、ぜん息などで日常的によく咳の出る人、胃や食道の外科手術後の人などにも見られます。そして逆流性食道炎になる人のほぼすべてが食道裂孔ヘルニアを合併しています。胃と食道のつなぎ目の締まりが緩い食道裂孔ヘルニアの状態のため、胃の内容物が食道に逆流することにより、食道に炎症を起こすためです。私は内視鏡医として日々胃カメラを行っていますが、食道裂孔ヘルニアの人を診ない日はなく、軽度の人も含めると全体の9割以上が食道裂孔ヘルニアの状態になっています。
食道裂孔ヘルニアは、悪化することはあっても、自然に元に戻ることは不可能です。「それなら、逆流を防ぐために手術をして、胃と食道のつなぎ目の締まりを強化する必要があるのでは?」と考える人もいますが、私は感心しません。がんがあるわけでもないのに、食道裂孔ヘルニアや逆流性食道炎の改善のためだけに、体にメスを入れるのは、体への侵襲(ダメージ)やリスクが高すぎると思うからです。
「食道裂孔ヘルニアが治らないなら、逆流性食道炎の治療はどうしたらいいですか。やはり薬ですか」と質問する人もいますが、その考え方もどうかと思います。たしかに、食道の粘膜は胃の粘膜に比べて胃酸の暴露に脆弱(ぜいじゃく)なため、胃酸の産生を抑制する「胃酸分泌抑制薬」は逆流性食道炎に対して非常に効果があります。食道裂孔ヘルニアがあって、胃の内容物が逆流したとしても、この胃酸分泌抑制薬を飲んでいれば胃酸の刺激が少なくなるため、食道の炎症は改善することが多いのです。
しかし、あまり知られていませんが、漫然と胃酸抑制薬を長期間服用することで、胃ポリープが増大・増加し、胃がんを発生しやすくなってしまいます。私は胃酸分泌抑制薬を9年間飲んでいたせいで年々胃ポリープが増大・増加し、うち1個が2センチの胃がんになってしまった患者さんを診療したことがあります。この胃酸分泌抑制薬は比較的新しい薬で、10年前には胃酸分泌抑制薬による副作用のため胃ポリープが増大・増加するような例はなかったのですが、最近はよく見かけます。よく効く薬は副作用も多いとつくづく思います。
やはり逆流性食道炎の改善のためには、生活習慣を改善することが大事です。具体的には、胃の内容物が逆流しないように、食後3時間は体を横にしないことが重要です。なぜなら胃の内容物が消化されるまで3時間くらいかかるからです。また、早食いや大食いも胃の内容物の逆流につながり、消化不良もきたしてしまうため気を付けなければいけません。
さらに、「糖質制限」による食事療法を行うことで、肥満を改善させることも逆流性食道炎の改善にはとても有効です。年齢を重ねれば重ねるほど、前記のような食生活の改善が逆流性食道炎の予防・治療に大切になってくるのです。
2024年3月23日号掲載
