15 高齢者の入院 ~フレイルの進行への考慮を

 前回の内容の復習になりますが、フレイルとは、加齢や疾患によって身体的・精神的なさまざまな機能が徐々に衰え、心身のストレスに脆弱(ぜいじゃく)になった状態のことをいいます。フレイルの状態になると、身体能力の低下や死亡率の上昇が起きます。そして、実感がわきにくいかもしれませんが、病気を治すために入院をすることで、フレイルが進行して寝たきりになってしまったり、死亡してしまったりすることがあるのです。特に高齢者ではこのようにフレイルが進行してしまうことがよくあります。一体どういうことでしょうか?

 高齢になるとさまざまな病気になります。肺炎、心不全、脳梗塞、尿路感染症、胆嚢炎、がん…など、若い頃病気で病院にかかったことがないような人も、70歳、80歳、90歳と年齢を重ねると、病院のお世話になることが増えてきます。それは車が古くなってくると故障しがちになるのと一緒で、致し方のないことだと思います。そして、入院を勧められるほどの重症の病気になることもまれではありません。

 しかし、高齢者にとって入院が「害」になることも頻繁にあるのです。入院することで、病気そのものは良くなるものの、足腰が弱って歩けなくなったり、認知症を発症したり、食事がとれなくなったり、排泄が自分でできなくなるなど、フレイルが進行してしまうことがあります。このように、高齢者の安易な入院は、かえって健康状態の悪化を招くことがあり、「入院関連機能障害」といわれています。

 例えば、若干の物忘れはあるものの、食事や排泄は自分ででき、なんとか身の回りのことはできて、少しは歩けているような高齢者は数多くいると思います。そのような高齢者が肺炎などで入院し、点滴や酸素吸入を開始すると、「自分が今、入院していて治療が必要であること」を認識することができず、点滴や酸素マスクを自ら外してしまうことを繰り返すことがあります。そうすると、病院側はやむを得ず、「身体拘束」という手段を用い、両腕を左右のベッド柵に縛りつけ、点滴などの治療を継続します。
 そのような状態で、入院生活が長引くと、知的機能も大きく低下し、体力面も低下してしまいます。会話のつじつまが合わず、寝たきりでおむつ交換が必要となり、食事介助も必要となるというようなケースをよく経験します。しばらくして肺炎が改善し退院できる状態になったとしても、入院前とは別人のようにフレイルが進行してしまうのです。そうすると、このような人は一人で生きていけるわけもなく、家族も引き取ってみることができないということになり、相応の施設を探すということになります。

 このような状況になることを想定して、入院治療を選択する人はめったにいないと思います。それどころか、肺炎などで入院中に転倒して、大腿骨を骨折してしまう、逆に骨折で入院中に肺炎など内科疾患を合併するといったような、「病気のドミノ倒し」を起こしてしまうことは、高齢者では頻繁にあり、最終的には病院から自宅に戻れずに、帰らぬ人となってしまうことすらあります。普段は元気そうに見えても、ぎりぎりの状態で生きている高齢者は多く、入院という生活環境の変化についていけず、逆に入院が知的機能、身体機能を損ねてしまうのです。

 では、どうすれば入院によってもたらされるフレイルを減らせるのでしょうか? それには、担当医から入院治療の提案があったときに、どうしても入院が必要か確認するという家族の姿勢が大事だと思います。病院に入院すれば、必ず全身状態が良くなるというような「入院信仰」をやめ、高齢者の場合、入院治療はできるだけ回避するよう心掛けていただければと思います。

2023年5月27日号掲載

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