42 糖尿病はいかに怖いか ~慢性的高血糖から合併症へ

 糖尿病という病気は大半の方がご存じですが、詳しく知らない人も多いので糖尿病について解説します。

 糖尿病を分かりやすく言うと「血液の中の糖が多い状態」のことです。私たちの血液中のブドウ糖(血糖)の濃度は、すい臓から分泌されるインスリンというホルモンによって、一定の範囲に下げられ、高くなり過ぎないように調節されています。糖尿病は、インスリンが十分に働かないために慢性的に血糖が増えてしまう病気です。

 糖尿病の歴史は古く、紀元前までさかのぼります。糖尿病に関する最も古い情報は紀元前1550年ごろ、エジプト王朝時代に書かれた医書の中にあり、「尿があまりにもたくさん出る」と書かれています。中国では、紀元前250年ごろの医書に糖尿病と思われる記載があり,口渇、多飲、多尿、痩せ、 化膿症、陰萎(インポテンツ)を認める「消渇」という名称が使用されています。
 記録に残っている日本で最初の糖尿病患者は、平安朝の貴族、藤原道長といわれています。藤原実資の日記「小右記」に、道長は51歳ごろから口渇や多尿が出現、その後は胸痛発作や視力障害に苦しみ、62歳で背部に膿瘍を形成し、最終的には昏睡に至り死亡したという記述があります。「この世をばわが世とぞ思う望月の欠けたることもなしと思えば」とうたって、栄華を極めた道長でしたが糖尿病には勝てなかったのです。

 糖尿病を英語で「diabetes mellitus(ダイアビーティス メライタス)」(略称:DM(ディーエム))といいます。これは「蜜のように甘い尿が常に出る」という意味であり、糖尿病患者の尿が甘いことから、17世紀より糖尿病をこのような英語で呼ぶようになりました。19世紀後半になると、高血糖の結果、尿糖が排出されることが示され、糖尿病の正体は尿糖が増えることよりも、血糖が増えることであることが明らかになりました。糖尿病の歴史は古いですが、糖尿病は血糖値が高い病気であることが分かってから、まだ150年くらいしかたっていないのです。

 高血圧、脂質異常症、高尿酸血症などさまざまな生活習慣病がある中で、私は糖尿病が最も恐ろしい病気だと思います。というのも、糖尿病は慢性的に血糖が高くなることにより、ほかの生活習慣病よりも非常に多くの合併症をきたしてしまう病気だからです。

 みなさんは糖尿病の3大合併症をご存知でしょうか。それは、(1)神経障害(2)網膜症(目)(3)腎症です。医学生は、この頭文字をとって「しめじ」とゴロ合わせで覚えることが多く、起こってくる順番もこの通りです。

 糖尿病を治療しない状態が約5年続くと、まず神経障害が起こってきます。はじめに、足のしびれがでてきます。血糖値が高い状態が続くと、血管がボロボロになっていきますが、より細い血管からダメージを受けます。神経はとても細いので、その神経にいく血管が細くなるため、神経障害から起こりやすいと考えられます。
 糖尿病を治療しない状態が約10年続くと、糖尿病性網膜症が起こってきます。網膜症とは、目の中にある網膜に栄養を送る細い血管の流れが悪くなることで起こります。目がかすむ、まぶしいなどの症状が出現することもありますが、突然目が見えなくなることがあります。糖尿病で年間3000人が失明しているといわれています。
 糖尿病を治療しない状態が約15年続くと、糖尿病性腎症といって、腎臓の機能が悪くなってきます。腎症が進行すると、足がむくみやだるさなどの症状が出現します。糖尿病性腎症は、透析導入の原因第1位です。この「しめじ」は健康寿命を縮めてしまう恐ろしい病気ですが、それ以外にも糖尿病はさまざまな恐ろしい合併症を起こしてしまいます。次回はさらに詳しく糖尿病の合併症について述べたいと思います。

〈第4土曜日に掲載〉

2025年8月23日号掲載

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