44 糖尿病の大血管合併症 ~太い血管に動脈硬化進む

 血管は、体の隅々に血液を運ぶ通路のような役割を果たしています。血糖値が何年間も高いままでいると、血管が傷ついたり詰まったりして、血流が滞ってしまいます。このように、高血糖が原因で血管とそれにつながる臓器が障害されると、数年から数十年の経過で糖尿病に関連するさまざまな慢性合併症が生じます。かなり進行するまで症状が出ないことがあり、気が付かないうちに合併症が進むと、時として命に関わる重い状態となることもあります。

 前々回、糖尿病の3大慢性合併症である(1)神経障害(2)網膜症(目)(3)腎症についてふれました(頭文字をとって「しめじ」)。厳密には、この「しめじ」は糖尿病による細い血管の障害で起こります。神経、目、腎臓は細い血管が多いので、高血糖状態が続くことでそれらの血管が障害されて「しめじ」が起こってしまいます。

 今回は糖尿病の慢性合併症の中でも、大血管の障害で起こる糖尿病の大血管合併症に ついてふれたいと思います。大血管合併症には、「壊疽」「脳卒中」「虚血性心疾患」の三つがあり、太い血管に動脈硬化が進むことで起こります。

 これらの三つの合併症はそれぞれの頭文字から「えのき」と語呂合わせで覚えることが多く、ぜひみなさんもそのように覚えていただければと思います。また、動脈硬化の原因には糖尿病だけでなく、高血圧、脂質異常症、肥満、喫煙なども関わっており、複数の要因が重なることでリスクがさらに高まります。

 壊疽は足の大きな血管が障害されて、足の血液が不足して組織が腐ることで起こります。高血糖状態が長く続くことで、壊疽をきたす人が多数いるのです。数年前、私が当直している時に、糖尿病により足の壊疽をきたした50歳代の患者さんが救急車で運ばれてきました。この患者さんは糖尿病があるにもかかわらず、病院にかからずに放置していたようでした。足が真っ黒に腐っており、何度も「痛い、痛い」とうめいていました。

 その真っ黒に腐った足をよく見ていると、100匹以上のウジ虫が付着していて、10匹程度のハエがそこから飛び立っていました。まさに人間の体にできた「ウジ飛行場」で、その時一緒に診療にあたった研修医と絶句したのを覚えています。もちろん、この壊死した足には治療の施しようがなく、切断を余儀なくされました。

 長期間の高血糖状態により脳血管が狭窄または閉塞することで、脳梗塞が発生するリスクが高まります。これは、急性の症状を伴い、しばしば命に関わる状況を引き起こすことがあります。

 私が診療にあたっている70歳代の糖尿病の患者さんに、数年前脳梗塞が起こってしまいました。私の外来に受診するようになってから、厳格な糖質制限の食事療法を行うことにより血糖コントロールは良好になったのですが、それまでの数十年にわたる血糖コントロール不良のため脳の大きな血管の動脈硬化が進行し、脳卒中になってしまい、後遺症として多少のまひをきたしてしまいました。

 虚血性心疾患は狭心症や心筋梗塞のことをいい、動脈硬化が原因で心臓の栄養血管である冠動脈に狭窄や閉塞が生じ、心筋に十分な酸素が供給されなくなることで起こります。やはり私が救急対応している時に、長年糖尿病を患っていたために、冠動脈の動脈硬化が進行することで心筋梗塞をきたし、心肺停止で運ばれてきた人を何人も診療したことがあり、そのすべての人は手の施しようがなく、みとることになりました。

 このように糖尿病の大血管障害である「えのき」(「壊疽」「脳卒中」「虚血性心疾患」)は、細小血管障害である「しめじ」同様に、著しく健康寿命を縮めてしまうことを知っていただければと思います。

〈第4土曜日に掲載〉

2025年10月25日号掲載

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