=2時間9分
長野グランドシネマズ(☎︎050・6875・0139)・イオンシネマ須坂(☎︎214・6729)で公開中

人命よりも経済優先 強烈な社会風刺物語
64歳とは思えない鍛え上げられた肉体を維持するトム・クルーズ。しかし、新作「ディガーDIGGER」で見せる姿は、これまでとは全く違うぼてぼて腹で薄毛の老人、しかも傲慢(ごうまん)で強欲なあくの強い億万長者役だ。トム自身が「ぶっ飛んだ役」とコメントするほど、異色の話題作だ。
大邸宅に愛猫と暮らす石油発掘会社のCEOディガー・ロックウェル(トム・クルーズ)に、早朝から緊急事態が伝えられる。発掘が原因でグリーンランドの氷棚が崩れ落ち巨大な津波が発生。世界規模の大災害が発生する危機が迫っているというのだ。即刻対処すべくコンプソン大統領(ジョン・グッドマン)ら閣僚を屋敷に呼びつけ会議を開くが、元凶であるディガーに事態収拾が命じられる。
金もうけに執着し環境問題を軽視する権力者たち。世論を誘導しようとするディガーのへ理屈にあきれるしかない。「トロピック・サンダー」(2008年)でもトムは特殊メークで中年はげおやじに扮(ふん)していたが、今回のディガーが時折見せる眼光の鋭さは、たたき上げが持つしたたかさだ。
物語が進むにつれ、観客は展開に違和感を持ちながらもスクリーンから目が離せない。真実は一体どこにあるのか。ラストまで混沌(こんとん)とした世界へ導くのはメキシコ出身のアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督。「バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(15年)「レヴェナント:蘇えりし者」(16年)で2年連続アカデミー賞を受賞した同監督が原案・脚本を手掛けたオリジナル作品だ。
世界を動かす人物たちが、人命よりも経済優先で無能で無責任。「フェイクニュース」とうそぶき責任逃れするさまは、実在する人物の言動に重なる強烈な社会風刺だ。苦笑いしてしまうパロディーのオンパレードに恐怖と怒りがじわじわと湧いてくる。人類はどこへ向かうのか。未来を予見したような見事な脚本にあぜんとするブラックコメディーだ。
(日本映画ペンクラブ会員、ライター)
2026年10月10日号掲載
