前回、メタボリック症候群(通称メタボ)とは、日本語で「内臓脂肪症候群」という意味であり、要はメタボとは内臓脂肪が多い人のことを表していると解説しました。メタボは脳卒中や心臓病、がんなどの死に至る病気をはじめ、万病と関わる油断ならない病態です。
それではみなさんは、「メタボリックドミノ」という言葉をご存じでしょうか。生活習慣病がドミノ倒しのように一気に進み、最後は命を奪うさまざまな病態を引き起こす恐ろしい状態です。今回は、メタボリックドミノの恐怖について取り上げたいと思います。

メタボリック症候群は、内臓のまわりに脂肪が過剰に蓄積した内臓脂肪型肥満を前提としており、進行すると、ドミノ倒しのように血糖値や血圧の異常などが起こり、次いで動脈硬化、虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)や脳血管障害、最終的には心不全や脳卒中、腎不全などの重大な病気が引き起こされます。これが、「メタボリックドミノ」と呼ばれる病態の連鎖であり、日本人の医師、伊藤裕先生がその概念を初めて世に示しました=図参照。
糖質の過剰摂取などによる生活習慣の悪化により、最初のコマである肥満、特に内臓脂肪型肥満が倒れます。そこから連鎖的にコマが倒れ、血糖や血圧、脂質の異常へと進みます。人間ドックなどで「血糖値高め」、「血圧高め」、「脂質異常」を指摘されている人はここまでコマが倒れていると考えた方がいいと思います。
この状態で、生活習慣の改善をしないでいると、糖尿病や脂肪肝を発症してしまいます。特に糖尿病が恐ろしい病気と認識している人は少なくないと思います。糖尿病には3大合併症(糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症)という恐ろしい合併症があるからです。
血糖コントロール不良の糖尿病の人は合併症を起こしやすく、5年で神経障害、10年で網膜症、15年で腎症を起こすといわれています。1年くらい前、当直中に糖尿病性神経障害が原因で片足が腐ってしまって、何百匹もウジが湧いている患者さんを診察しました。今思い出してもおぞましい光景です。もちろん、この人は下肢切断の治療を余儀なくされました。この人の病態は、糖尿病の合併症により、メタボリックドミノの図の最下端の「下肢切断」のコマまで倒れてしまった状態です。ここまで病態が悪化してから生活習慣を改善しても、失った足は帰ってきません。
糖尿病性腎症が悪化すると透析が必要になりますし、糖尿病性網膜症が進行すると失明してしまいます。要はメタボリックドミノの最下端のコマが倒れてしまうと、元の健康体には戻れないのです。
また、糖尿病に高血圧や脂質異常症が合併してくると、急速に動脈硬化を進行させて、心筋梗塞や脳卒中などの突然死につながる病態に移行します。それに関連して、生活習慣病のうち、「内臓脂肪型肥満」「糖尿病」「高血圧」「脂質異常症」の4つの病気を同時に患っている状態を死の四重奏と呼ぶこともあります。四つともある人は少ないかもしれませんが、二つ、三つを合併している人は多数いらっしゃるのではないでしょうか。そのような人は、今元気なつもりでも、突然死する可能性があるのです。恐ろしいですよね。
このように後戻りできない状況にならないようにするには、メタボリックドミノの図の上段の肥満、特に内臓脂肪型肥満の段階で、生活習慣を改善することが重要です。肥満の原因を遺伝や体質のせいにする人が多いですが、図に書かれているとおり遺伝や体質はサブ(副次的)な要因であり、早い段階で生活習慣、特に糖質制限を中心とした食習慣の改善をすることで、メタボリックドミノから脱却し、健康寿命を延ばすことができるのです。
2024年8月24日号掲載
