がんはみなさんが最も恐れる病気ではないでしょうか。実は、内臓脂肪の蓄積はがんの発症リスクを高めてしまいます。
2017年に国際がん研究機関(IARC)が発表した研究では、平均年齢62~63歳の計4万3419人(男性 1万8668人、女性 2万4751人)を対象に分析しました。その結果、中央値12年間の追跡期間中に、1656人が肥満関連のがんと診断されました。腹囲(ウエスト周囲径)が11センチ増えるごとに肥満関連のがんリスクは13%上昇し、腹囲の増加(内臓脂肪の増加)は10種類のがん(大腸がん、食道がん、胃がん、肝臓がん、胆嚢がん、すい臓がん、子宮がん、卵巣がん、腎臓がん、乳がん)に関連していることが判明しました。

内臓脂肪過多は消化器系のがんや、女性特有のがんと密接に関わっているのです。私はダイエット専門医であるとともに、消化器内科の専門医であることもあり、この研究結果を踏まえ、当院ダイエット科を受診された人には、必ず大腸カメラや胃カメラ、腹部エコー検査を受けるように勧めています。
内臓脂肪の増加で発症する10種類のがんのうち、最も関連しているのが大腸がんといわれています。内臓脂肪の面積が30平方センチ未満では大腸がんの元になる大腸ポリープを有する人の割合が約3割だったのに対し、内臓脂肪の増加とともにポリープの有病率は増加し、150平方センチ以上では7割を超えるという研究報告もあります。
実際私は日々大腸カメラを行っていますが、内臓脂肪が多い人ほど大腸ポリープが多く、大腸がんにまでなってしまう人が多いのを実感しています。また、内臓脂肪型肥満の人のほぼすべてが脂肪肝を合併しており、脂肪肝が肝臓がんのリスクにもなります。
それでは、なぜ内臓脂肪の蓄積ががんの発症リスクを高めてしまうのでしょうか。内臓脂肪が蓄積すると、脂肪から放出されるアディポサイトカインという物質の分泌異常が起こります。具体的には、TNF―α(悪玉アディポサイトカイン)の分泌増加とアディポネクチン(善玉アディポサイトカイン)の分泌低下をきたすことで、質の悪いインスリンが増加する高インスリン血症を来します。インスリンはがん細胞の増殖因子としての作用を持っているため、がん発症のリスクを高めてしまうのです。
また、アディポネクチンには、細胞の増殖を抑える働きもありますが、内臓脂肪が増えすぎてアディポネクチンの分泌が減ると、がん細胞の増殖を抑えることができず、がんを発症するリスクを高めてしまうのです。さらに、近年注目されているのは、内臓脂肪から放出される「FGF2」という物質です。この物質にがん化を促す作用があることが明らかになっています。
アメリカにおける最新(2019年)の研究では、がんの罹患および死亡に寄与するリスク因子の第1位は喫煙であり、第2位は過剰な体重と飲酒となっています。がんの最大の危険因子は喫煙ですが、近年では、内臓脂肪の増加が喫煙を追い越しつつあるのです。
以前「隠れ肥満・やせメタボについて」の回でふれましたが、体全体がスリムであっても、腹囲が増え、内臓脂肪がたまっているケースがあります。そうした場合でも、当然がんの発症リスクは上昇してしまいます。体格指数(BMI:体重 [㎏] /身長[m]2乗)と腹囲は、肥満に関連するがんリスクを知るための良い指標となります。
標準体重を維持し、腹囲が増えないようにすることが、がんを予防するために重要です。そして、内臓脂肪が増えないように、あるいは減少させるには、「シメの○○」や「甘い物は別腹」というように、食べなくてもいいのに余計に取ってしまいがちな糖質の取り過ぎに注意し、適度な運動量を確保することが大切なのです。
〈第4土曜日に掲載〉
2025年7月26日号掲載
